ロレンフスキー

文学作品の印象を味覚で表現する「文学×カレー」プロジェクトを中心に書いています。

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文学作品の印象を味覚で表現する「文学×カレー」プロジェクトを中心に書いています。

最近の記事

日記 7月24日

夢。こんな暑い季節だが、鰤しゃぶを食おうと言われて招待される。行ってみると鰤しゃぶを本当にうまく食べるには、人間の肉を煮た鍋に鰤の刺身をさっとくぐらす、そこにもみじおろしでも柚子胡椒でもつけて食うのがいいのだと言う。そう言うのは古い友人だ。そういうものなのかと思い、夢の中のわたしはすっかり人肉を食う気になっている。これから捌くんだ、おまえ、たしか捌くの馴れていただろと言われ、捌いたことなんてないと返せば、こないだうろこ取りを買ったと言っていただろうと言われる。有無をいわさずに

    • ガラス瓶

      ☆戻り梅雨というのでしょうか。ここ最近、暑さとも湿度とも言えぬなにかに確実にたましいをやられている気がします。そんな中、この雨季の感覚をそのままぶつけたような創作を二十歳の頃に書いた気がする、とあさったものをそのまま載せます。当時サークルの会誌に載せた気もします。色々あって退学届をもらって、その勢いで書いたもののはずです。あっさり手続きがいったように書いていますが、そこはフィクションで、実際は(多分これを書いたあとに出した)結構面倒なことになり、受理はされませんでした。結果的

      • Wさんの主題によるカレーのこと

        Wさんのことを書く。 と、一行書いておいてなんだが、この書き出しは二重の模倣である。織田作之助は武田麟太郎の追悼エッセー「四月馬鹿」でこう書いている。「武田さんのことを書く。 ーーというこの書出しは、実は武田さんの真似である」。そしてその真似の元である武田麟太郎の戦時中の小説「弥生さん」はこんな風にはじまる。「弥生さんのことを書く」。 なんとなく、この感じを真似してみたかった。そういう気分もあるにはあるのだが、Wさんについて書こうとすれば、どこかでこんな無頼派気取った書き方が

        • 内田百閒「サラサーテの盤」ちぎり蒟蒻のキーマカレー

          材料 ・たまねぎ 1個(みじん切り) ・ながねぎ 1本(みじん切り) ・こんにゃく 1個(ちぎる) ・合い挽き肉 300g ・ごぼう 1本(細かく切る) ・にんにく 1かけ ・しょうが 2かけ ・水(できれば、かつおだし)200ml ・トマト缶(ホール)200ml スパイス ☆ホール......なければないでOK! シナモン 1/2本 スターアニス 1/2個 クローブ 3個 マスタードシード 小さじ1/2 ☆パウダー......なければカレー粉大さじ1.5 クミン 

          えちうど(1年前の)

          件名なし。あなたが昔よく歌っていた曲が、テレビから流れてきました。「若者のすべて」でしたっけ。あなたはお元気ですか? Re:件名なし。元気です。ご無沙汰しております。そちらこそ、おかわりありませんか。 Re:Re:件名なし。お元気とのこと、よかったです。感染症が大変な昨今で、ちょっと思い出してしまいました。どうかお元気で。 Re:Re:Re:件名なし。......いや、そんなタイトルのメールはない。その件名に該当するメールを送らなかったことを、わたしは不意に思い出す。十

          えちうど(1年前の)

          えちうど 1

          散文をつむぐことへの抵抗感ってなんなんだろう。そんなことをずっと考えて、2年の月日が流れ去る。いや、「2年の月日が」なんて気障っぽくかいたのは、別にわたしの趣味じゃない。不意に「ルビーの指環」の「そして二年の月日が流れ去り」の一節が聴こえたからだ。 そう、二年とは街でベージュのコートを見かけると指にルビーの指環を探してしまう、そうさせるほどの年月である。......いや、本当にそうか? 捨ててくれといった指環をそんなに期待するか? 別離の後も指環をするか? こんなこともぐにゅ

          西脇順三郎『旅人かへらず』カレー

          ☆例によって、レシピは後半です。 今年は季節が前倒しだという。桜の満開も早かったし、躑躅の咲くのも早かった。思えば五月のはじめで、こんなに薔薇が咲いていたかしらとも思う。梅雨入りも早いとささやかれるし、そういえば今日は早くも夏日。 夏も立ち、空気もむわむわしてくる。どこか水っぽくて、昨今のマスク必須にはなんとも苦しい。夏っぽい日の空気感はしかし嫌いではない。なにより匂いがちがう。街全体が緑の、青っぽい匂いに包まれる。どの植物のというのでもなく、あちこちの樹々がそれぞれに

          西脇順三郎『旅人かへらず』カレー

          喫茶と熱帯魚と事故物件

          喫茶店が好きだ。そういうと、頭に「純」がつく方の話に自ずとなる。それも嫌いではないのだが、好きと言えるほどは訪れない。そもそも一人ではまず入らない。純喫茶はたばこが吸えるところが多い。誰かと話す間、ほんのり煙がくゆる程度ならまだ我慢できるが、一人で休むために入ってなびいてくるのはやりきれない。もちろん完全禁煙の店もあるが、それでも一人ではやはり行かない。一人で訪れ、コーヒーをゆっくり味わう、そんな贅沢をまだ自分に許せないのである。 だからここでいう喫茶とは、チェーン店のことだ

          喫茶と熱帯魚と事故物件

          飲んで酔うスパイスカレー、佐藤正午の失踪者の主題によるカレーについて知ることのすべて

          ☆レシピは後半にあります。 佐藤正午の小説で最初に読んだのは『ジャンプ』だった。少し離れた仕事先に向かう電車の中で読み始め、休憩時間も読み、帰りの電車でも夢中でページをめくった。語りのうまさにやられた。情報量の多さ、おびただしい固有名詞、それがしかしこの埋めようのない欠落を抱える作品世界の描写にはどうしても必要だ。饒舌なようでいて、ものすごく抑制が効いている。語るスピードに絶妙な加減があって、もっと聞かせてくれと、読者は前のめりで耳を傾ける。これ以上遅くても速くても崩れ

          飲んで酔うスパイスカレー、佐藤正午の失踪者の主題によるカレーについて知ることのすべて

          ヘミングウェイに捧げるチキンカレー

          整体でお世話になっている先生に言われて、十日間の糖断ちをしていた。「糖」断ちとはいうが、糖類だけではない。果糖を含む果物はまあわかるとして、糖とは関係のなさそうなアルコール、コーヒーも断っていた。砂糖がどうこうというのではなく、「習慣性・麻痺性のあるもの」を一時的に断つことが目的らしい。 わたしは普段、基本休肝日がない。毎日、少しではあってもアルコールを摂取している。それが体によいはずがなくて、じんわりとした不調は感じていた。だが不調が常日頃のことになると、人間それにも馴

          ヘミングウェイに捧げるチキンカレー