実話怪談 急停車
大学生のTさんが夜道を一人歩いていた。バイト先からの帰りだった。彼のすぐそばを一匹の猫が走っていった。尻尾の先だけが黒い白猫だった。当時Tさんは付き合っていた彼女に振られたばかりでムシャクシャしていた。そのため、足元に落ちていた石を拾い上げると、猫に向かって放り投げた。猫は石が飛んでくるのを感じたのか、すんでの所で避けた。
「シャアア」
猫はTさんに向けて毛を逆立て、うなった。Tさんは、猫がこちらに敵意を向けてくるとは全く思っていなかった。
「この野郎」
Tさんは猫を睨み返した。
それから3か月後、Tさんは電車に乗っていた。その日は大学の定期試験の日だった。進級が掛かっており、Tさんは遅刻しないように、普段よりも早い時間の電車に乗っていた。
Tさんは車内で何度もレジュメやノートを見ていた。少しでも良い点を取るためだ。
「急停車します。ご注意ください」
アナウンスの後、甲高い音を立てながら電車が停止した。Tさんは前の座席につんのめり、ノートを落としてしまう。
試験に間に合うか? いや、いつもより早いのに乗ってるから大丈夫だろう。そのうちまた走り出すはずだ。とにかく今は暗記に集中しないと。Tさんはそう思った。ノートを拾い、再び暗記を始める。しかし、そのまま30分が経過した。電車は一向に動く気配がなかった。
「おい、いつになったら動くんだよ」
「線路上からどかなくて」
そんな客と乗務員の声が聞こえた。
どかなくて? 何が? Tさんは一号車に乗っていたので、窓から前を見てみる事にした。
30匹ほどの猫が線路の上に座っていた。三毛猫や黒猫など全て違う種類の猫だった。ふと一匹の猫がこちらを睨んでいるのに気づいた。尻尾の先だけが黒い白猫だった。
結局、Tさんは試験に間に合わなかった。