実話怪談 指輪

 会社員のKさんから聞いた話だ。当時Kさんは仕事が上手く行かず、ストレスが溜まっていた。それを同僚に話すと、森に行くことを勧められた。自然に触れれば、気も晴れるだろう。Kさんは休日に森に行くことにした。
 森の中を歩いていると、そばにある木から何かを感じた。葉が赤茶け、至る所に虫食いの穴が開いているという枯れる寸前の木だった。近寄って見てみると、幹に食い込むように何かが挟まっている。Kさんが指でつまんで引っ張ると、ぽろりと取れた。
「これは、指輪か。しかし一体何でこんなところに」
 指輪は幹の中にあったにしては、綺麗で傷もほとんどなかった。Kさんは不思議に思いながらも、それをポケットに入れて、家に帰った。なぜかとても疲れていたので、ソファに座った際にそのまま眠ってしまった。
 その日の夜、Kさんはふと目を覚ました。
「何の臭いだろう」
 むっとするような植物の臭いが部屋に充満していた。しかし部屋の中には臭いの元となる物は見つからない。突然、Kさんは気分が悪くなった。急いでトイレに駆け込み、嘔吐した。
 黒色の丸いモノ。無数のそれが水面を埋め尽くすように浮かんでいる。よく見ると、黒丸から何か緑色のものが飛び出ている。
「これは芽、か?」
 どうやら植物のタネのようだった。
 Kさんは噴き出る汗をハンカチで拭いた。とりあえず、流してしまおう。見ていると気分が悪い。
 ジャアー。
 流れていく水の中、何かが光った。
 あれは森で拾った指輪だ。ハンカチをポケットから出したときに、落ちたのか。
 指輪は流されていった。
 すると、辺りに立ち込めていた臭いが無くなった。不思議なことにKさんの気持ち悪さも無くなっていた。

 ただ、近ごろ排水溝から植物の臭いがしてくるようになったのだとKさんは語った。

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