【ショートショート】唐揚げビンゴ

唐揚げが無性に食べたい。

焼肉とか、ラーメンとか、カレーなどは、無性に食べたくなるときがある。しかし、唐揚げは、私にとって、無性に食べたい頻度はそれほど多くないレアキャラだ。

会社を退社すると、腹はペコペコ。ちょっと寄り道して、居酒屋で唐揚げとビールでサクッと一杯という選択肢もある。しかし、その日は、なぜかビールという気分ではなかった。唐揚げには、白米というチョイスしかなかったのだ。

家にまっすぐに帰ることにした。とにかく腹がすいてたまらない。ただ、「今日は唐揚げをお願い」などと妻に、夕飯をお願いすることは、新婚の頃はあったかもしれないが、手間もかかるし、そのようなこともなくなった。
あり合わせのものでさっと作ったり、子供の希望で、だいたい夕飯はできている。

だから、唐揚げは、頭の中の妄想で、電車に揺られながら、唐揚げを頬張ることを想像していた。からっとジューシーな唐揚げで、脳内いっぱいに肉汁があふれ出し、私はしっかりと噛みしめていた。

帰宅したら、用意されている夕飯を食べようと思った。とにかく腹がすいてたまらないのだ。

「今日の夕飯は何?」

「唐揚げよ、冷凍だけどね。」

「えっ、マジ?」

「何か、悪かった?」

「いや、なぜかめちゃくちゃ唐揚げが食べたかったからさ。これって何かの偶然じゃない?今日は超ラッキーだ!」

「あっそ、よかったね。」

妄想が現実となった。サクサクジューシーな唐揚げにかぶりつく。白いご飯も進む。至福のひとときだ。子供はたいして食べたそうでもなかったので、唐揚げもらっていい?と、大人げなく、お裾分けしてもらう。

まぁ、冷凍唐揚げで人生の至福を味わえるなんて、自分も安上がりにできているなと苦笑しつつ、満腹になって満足していた。

実は、帰りの電車の妄想では、食後に塩大福が出てくるというストーリーだった。それで、「塩大福も食べたいんだけど。」と妻に聞くと、「そんなものないわよ。」と一蹴されてしまった。

(おしまい)
#ショートショート #エッセイ #家族 #食卓 #唐揚 #至福


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?