
Photo by
juritakai
ジンジャークッキー・イヴ【ショートショート#35】【680字】
ジョージは暖炉から這い出て、サンタの服から煤を払った。赤い袋を背負ってベルトから拳銃を取り出す。ジョージは泥棒である。
クリスマスはこの恰好で裕福そうな家の子供部屋からプレゼントを盗むと決めている。もしもガキが起きても、サンタだと言い張れば怪しまれないからな。現場には必ず手作りのジンジャークッキーを置き土産にしていた。
そろりと子供部屋に忍び込みながら、煙突から落ちた時に痛めた腰をさする。泥棒生活も二十年になる。ジョージはそろそろ引退を考えていた。
キョロキョロ部屋を見回す。あった。少年の枕元にラッピングされた贈り物がある。ジョージがそれに手を伸ばしたその時、ガチャリと音がした。
息を呑む声。母親らしき若い女が部屋の前で目を見開いている。叫ばれたらまずいぞ。ジョージはホルスターに手をかけた。だが、女の思わぬ言葉に動きが止まる。
「……オーマイガー。やっと会えた。ずっとずっと信じていました。サンタさんは本当にいるって……」
女の目に涙が浮かぶ。すると、女はジョージに「待っててくださいね!」と言い残してどこかに去って、また戻ってきた。
手にはビニール袋に入ったジョージのジンジャークッキーが入っていた。ボロボロになっている。
「サンタは本当はいないって皆は言うけど、私だけは信じてました。だって本当に見たんだもの。十五年前の今日、私の部屋で……」
ジョージが人から感謝されたのは一体いつぶりだろう。もう思い出せないほど昔の話だ。
「……メリークリスマス! 息子さんにプレゼントを持ってきたよ。もちろん、あなたにもね……」
ジョージはクッキーを彼女に手渡した。……今年くらいは本物になってやるか。