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忘年怪異【ショートショート#34】【676字】
私は居酒屋の店員……だが霊能者だ。
「東雲さん、5番テーブルに生4つお願い!」
年の瀬も迫ってきて、忘年会の予約が増えてきた。ポニーテールを振り乱しながら私は団体客のいる座敷にむかう。
店内は笑い声や大声で騒がしい。多くが上機嫌に酒の席を楽しんでいたが、その中に一人、暗い顔の女性客がいた。自分で肩を揉みながらため息をついている。その肩の上に、黒い人型の影が乗っていた。
……今、楽にしてあげるからね。
「失礼いたします」
私がポンと肩に手をのせると、影はふっと消えていく。彼女は肩こりがとれたのか、明るい表情になった。私はこんな風に客の憑き物をこっそり落としてあげている。学生時代の私は、恐山のイタコに弟子入りして除霊の資格をとった。就職には使えなかったけど、職場の居酒屋で客の除霊をはじめたとたん、店が評判になった。
座敷に入るなり私は息を呑んだ。その場に陰鬱な空気が流れている。某大学病院の学会のメンバーの忘年会と聞いたが、誰もがしんどそうに肩や腰を揉んでいた。
それもそのはず。全員の肩に大小さまざまな黒い影がのしかかっていたのだ。多くの死に立ち会う病院だからだろう。
「ご注文の品をお持ちしました」
ジョッキをテーブルに置きながら一人一人の肩に軽く触れていく。今までが嘘のように全員の表情が晴れやかになっていった。だが、私の施術は思わぬ結果をもたらした。
「君、ココの料理は何を使っているのかね? 腰痛に効く食材を使っているのか? だとしたら新発見だ。厨房を見せてくれないか?」
医師たちに質問責めにされながら、私は憑き物落としを後悔するのだった。