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蛇のナミダ(スネーク満床)【ショートショート#38】【530字】

たらはかに(田原にか)様の毎週ショートショートnote「お題:スネーク満床」に参加します。



 烏丸からすま動物病院のベッドは、患者(?)で埋め尽くされている。ケージの中は、恐ろしい眼をした蛇や木の枝にしがみつくカメレオンなどの爬虫類ばかり。
 若き院長の烏丸悟からすまさとしは、百キロ超の身体を揺すりながら、アオダイショウのケージを開けた。
「出ておいで」
 隅に隠れていた蛇は、烏丸を見るなり嬉しそうに寄ってきた。
「もう感染症は治ったようだ。そろそろ退院だねぇ」
 烏丸が頬ずりをしていると、看護師の声がした。
「新規の入院希望の方が来てます。もうケージは満床ですが、どうします?」


 烏丸が受付に到着するなり、柄の悪い声が出迎えた。
「ちょっと先生、何とかしてよ。俺のペットが死にそうなんだけど!」
 悪趣味な蛇皮のジャケットを着た茶髪の男だった。
「金は出すから頼むよ」
 蛇皮の財布をヒラヒラと見せる。烏丸はムッとする。こういった「勘違い爬虫類オタク」が大の苦手なのだ。
 ケージの中のボールパイソンはおびえ切って隅に丸まっている。全身の所々に薄皮がこびりついていた。
「……これは脱皮不全だ」
 蛇の目はウルウルと悲しげに潤んでいる。大好きな蛇のこんな姿を見せられては放っておけない。
「この子はウチで預かります」
「えっ、だから満床だって……」
「いいから!」
 処置が終わったら、この男に正しい爬虫類愛を教えねば。

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