決闘!年越しそば【ショートショート#37】【436字】
「良いお年を」
大晦日の夜八時に、手を振り合って古い友人と別れた。
夜道を歩きながらふと考える。あと四時間で今年が終わるのに、良いお年を、ってどういうことだ。
あとわずか四時間でこの一年を挽回できるのか。気づいた時には蕎麦屋に走り出していた。まだアイツとの決着がついてない。
俺は孤高のフードファイター・武蔵。
四十を過ぎて、肉体的なキツさから引退を考えている。俺の心残りは、彗星のごとく現れた新人ファイターとの決着がついてないこと。
真夏のかき氷早食い、水戸の納豆早食い、NYのホットドッグ早食いのいずれも引き分けだった。
「待ってたぜ。武蔵さん」
蕎麦屋『巌流島』の暖簾をくぐると、若い美形の男が着席していた。
「小次郎……!」
向かいの席に俺はドカッと座った。この店の名物は、年越しわんこそば早食い大会。武蔵の登場にギャラリーが沸いた。
こいつに勝って今年を最高の一年にしてやる。
ファイッ!
運ばれてきたソバを口にした瞬間、俺は致命的なミスに気づいた。
俺が重度のそばアレルギーだったことに。
皆さん、よいお年を。