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#16 ホイップクリームに溺れる【1400字】

 全国で一番人気のホイップクリーム工場が北海道にある。生クリームから製造されたホイップがトラック一杯に積まれて、全国のお菓子工場に出荷されるのだ。

 有名な建築家がデザインしたことでもこの工場は有名である。シュークリームをイメージしたなんともおいしそうな外観だ。

 ここに近所の小学校が工場見学にやってきた。

 シュークリーム食べ放題のイベントが最後にあって、大人気の社会科見学だ。

 いたずら好きで水泳が得意な小学四年生の相沢雄介は、この日を楽しみに朝ごはんを抜いてきた。

(盗み食いできる場所がどこかにあったりしないかなぁ?)

 引率の先生にひかれ、巨大なシュークリームのような工場の内部に案内されていく。

「みなさん、あちこちを走るパイプには生クリームが流れています。ここもできてから長いので、パイプが古くなっています。決してさわらないでください」

 工場長が雄介たちに語りかける。

 こっそり見学の列を抜け出した雄介は、生クリームをこっそりつまみ食いできる場所を探す。
 
 透明なガラスのパイプがあちこちに走る部屋を見つけた雄介は、人気のないことを確認すると、それに飛びついた。

 真っ白なクリームが透明な管の中をどんどん流れていく。

 目を輝かせて、パイプをこんこんと叩いてみる。

「うわっ!!」
 
 ちょうど画鋲か何かでコーラの缶に穴をあけたように、プシューッと音を立てて白い液体が噴出してきた。
 
 だんだんと穴が広がって、噴水のようにクリームが噴き上がる。

 青ざめた雄介はその場から走って逃げ出した。

「相沢っ! お前どこにいたんだっ!?」 

 部屋を出てすぐ、先生と出くわした。

「あちこちのパイプからクリームが噴き出して大変なことになってたんだぞっ!」

「えっ!?」

 一緒にいた工場長が惨状を目にして焦りをあらわにする。

「これはまずい。いますぐ中央制御室の緊急停止ボタンを押さなければ……。しかし、制御室もクリームで充満しているかもしれない。ボタンまでたどり着けるかどうか」

その話を聞いて、雄介は意を決して挙手した。

「ぼく、水泳が得意です! そのボタンまで泳いでいけるかも!」

 まっすぐな瞳を見た工場長は頷いた。作業服の背中を追いかけて数分走ると、雄介は制御室の前にたどり着く。

 雄介を後ろに下がらせ、工場長が扉をこじあける。

「「うわっ!」」

 ホイップクリームの白い濁流が二人をのみこんだ。

「君! 緊急停止ボタンはあそこだ!」

 真っ赤なボタンを見つけると、雄介はダイブした。クロールで波をかきわけ、ボタンまでにじり寄っていく。

 あと少し。指先が触れそうになる。

 だが、もう少しのところで雄介は部屋の外へと押し流されてしまった。
 

 **********


 大勢の作業員たちが集まって工場の出口で事態を見守っている。雄介とクラスメイトたちもそこに集まっていた。

 ふと、とてつもない轟音が響く。

 シュークリームを思わせる建物の天井が吹き飛ばされて、ホイップクリームがそこから噴き上がっていく。

 それはまるで巨大なシュークリームのようだった。

 肩を落とす雄介に、工場長が声をかける。

「君の責任じゃないよ。もともと経年劣化でパイプがダメになっていたんだ。それより、制御室で手伝ってくれてありがとう。楽しみにしていた食事会が台無しになってしまってすまないね。……これ、一つだけだけど」

 工場長が小さなシュークリームを渡す。雄介は感謝して一口頬張った。



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