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一流の爆弾魔【ショートショート#30】【457字】

 俺は、モニターを食い入るように見つめていた。モニターには不審な男が映っている。何日も洗っていないであろうギトギトの髪を帽子から覗かせていた。その男は、こそこそと何かを高層ビルの各階に設置していく。
「たのむぜ。木っ端微塵に吹き飛ばしてくれよ」
 そのビルは昼間にもかかわらず静まり返っている。時折、外で地響きのようなズーンズーンという音が聞こえてくる。男は額の汗を拭きながら慎重に爆薬をセットしていった。
「さすがだ。この状況で顔色一つ変えないとは……」



 そして、男が後ろを振り返って両腕でオーケーの形をつくった。
「ヨーイ……アクション!」
 監督の合図で、精巧に作られたミニチュアの街をカメラが映し出す。そして、高層ビルよりも背の高い巨大な怪獣がにゅっと顔を出した。
 ギャオーとすさまじい鳴き声を上げながら、そいつがビルを張り倒す。と、同時にセットの後ろに控えていた特殊効果班の俺は起爆スイッチをひねった。セメントが爆散してナパームの炎が噴き上がる。
「カット!」の声と同時にスタッフが爆破職人に拍手喝采を送るのだった。


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