フロレンティア12 スイス LUGANO (ルガーノ)Ⅰ
その日、俺はスイスにいた。イタリアには戻れない。
ルガーノというスイスとイタリアの国境、そこの列車の駅から数分の場所、道路の端の固いコンクリの上に寝そべって考えた。
『どうやってイタリアに戻ろう』
夕暮れが襲ってきた。辺りの薄暗さが不安にさせたのだ。ふとアルプス山脈を見上げようと空を仰ぐと突然雨が顔にあたった。
『アルピーなんてどこにも見えねえ、真っ暗じゃあねえか』そう俺は思うと慌てて飛び起きた。
このいきなり降ってきた雨はすぐに大粒の激しい雨となった。
『やばい、こりゃあ野宿は無理だな』
俺は雨の中 走って駅へと戻った。びしょぬれとなった体、そしてカミナリの凄い音も俺を精神的に参らせていた。
話の発端は学生ビザだった。ローマにある日本大使館で再発行された俺のパスポートの中には何も記載がなかった。
そうパスポートを盗まれたということは、そこに記載されていたビザの効力までも失ってしまっていたのだ。せっかく大阪のイタリア領事館で作成して頂いた学生ビザはイタリアに着いたその日に無効となってしまった。イタリア領事館長のあの素晴らしい御好意を俺の不注意から台無しにしてしまったのである。
日本人が観光でイタリアに滞在できるのは3ヶ月がリミット。このままでは俺はイタリアで不法滞在者になってしまう。先のジンガリとなんら変わらない、よその国からきた不法滞在者だ。
一度イタリア国外に出て、入国のスタンプをパスポートに貰い再び戻ってこよう。そう決めた。
『ミケ-レ、今日スイスに行ってくるね。ああ、すぐ戻ってくるから土産はやらんぞ(笑)』
そう言って今朝早くアパートをでて、俺は一人列車でスイスへ向かったのである。
スイスは思った通りきれいな所だった。ただ、物価がイタリアに比べ異常に高い。金もない一人旅ではただひたすら歩くだけ。おしゃれなCafeでCAPPUCCINOも飲まず、折角のスイスだからといってチーズフォンデュを食べる訳でもなくただ徘徊しただけで終わった。
『ああ、誰かと来れば良かったかな~』
でも目的はパスポートにスタンプを押してもらい、一度国外に出た証拠をもらう為だから。自分の為にあまり友人に迷惑をかけたくなかった。
ミケーレやアンドゥ達は今 ドイツからイタリアに休みを使って勉強しにきている訳で、ドイツに帰ってからでもスイスなんかにはいつでも来れる。もしかしたらスイスには何度も来たことがあるかもしれない。
マルコとラッガと3人で来たらあてつけられるだけだし、タカシは俺と同じく金がない・・。
『こんな綺麗なとこ、ひとりで見てても俺には似合わん。』とすぐにイタリアに帰る為の列車に飛び乗った。