感動の涙の裏側にあるもの|『花嫁はどこへ?』が描くインド社会の深層
奇麗な涙を流したいですか。
ストレスを発散したいですか。
何か思い悩んでいて違う切り口を探していませんか。
そんな方は迷わず騙されたと思ってインド映画「花嫁はどこへ?」を観ましょう。
ミニシアターでの特別な体験
映画公開されてからしばらく経つ。
良い映画だという噂をチョクチョク聞くようになり観たいと思っていたがスケジュールが合わず今になった。
上映館が少なくなってきた。
ちょうどいい。
まだ行ったことのないミニシアター、宝塚シネ・ピピアで上映されていると情報を得たので行ってみた。
インド映画の常識を覆す:歌って踊らない新しい魅力
インド映画の代名詞とも言えよう「歌って踊って」はこの映画にはない。
これはネタバレか?
でもインド映画に対する偏見の一つ。ハードルの一つでもあろう。
ごく普通の映画のように挿入歌のように音楽が入る「程度」だ。
ま、この「程度」は人の感じ方それぞれなので是非見て感じてほしい。
以下ネタバレあり。
映画をこれから見ようとする人は以下のネタバレを読んでしまうと映画の面白さが半減してしまうので気を付けてくださいね。
ネタバレ注意:巧みな脚本が生み出す感動の仕掛け
表面的なストーリーを追って行ってみれば、花嫁が迷子になり苦労し、最後は涙の再会を果たすというものだが、それはそれで感動の話になっている。
ただこの映画の脚本の素晴らしさは、その迷子になった花嫁が花婿と再会するお膳立てが疑惑の入れ替わった花嫁がキーマンを果たしているという点。この点に関しては観ている人側も上手く騙してくれ感動を盛り上げてくれた要因となっている。
個性豊かなキャラクターたち:インドの多様性を体現
善悪の構図は単純だが、その立ち位置の変換の仕方も素晴らしい。見る側に単純に分かるように仕向けて花嫁に関しては裏事情がしっかりとあり徐々にわかるように、悪徳警察署長に関しては土壇場で立場の入れ替わりがあり、これも爽快。
ただし、署長に関して現実的に考えると色々とモヤモヤもあるのは事実。w
別件で賄賂貰っているのは事実だしね。w
この映画の魅力はキャラクターの個性も大きな要因の一つ。
警察署長
署長のサブ
屋台のオバサン
駅で暮らす助けてくれた二人
駅長
花婿の実家の家族
認知症と思われるのお爺さん
花婿の友人
キャラの宝庫だ。
ボクもバックパッカーとしてインドを旅行したことがあるが、警察署長のような警官がいるのは事実。彼らが信じられないのも事実。インド人が信じられないなら外国人である我々が信じられないのは当然だ。
でも今回の映画で見直した!
って、わけない!
社会問題を軽やかに描く:コメディの中の深い洞察
メインストーリーは、再会譚だが、なぞ解き要素も多く含まれていてミステリアスな要素を加味している。
同時に社会派作品要素もしっかりとあり、カースト制度、家長制度、村制度、古いしきたり、特に女性問題に対し問題定義しているのは、ハッピーエンドストーリー、コメディ―調でありながらも素晴らしい点だと思う。
更に言えば、社会問題と言ったが、必ずしも古いことに対し全否定的な視線で捉えているのではないということ。
貧しくても助け合い、それが故に心の豊かさを得ている人々がいるという現実もしっかりと制作者側は目に捉え、作品に表している。
インドの日常生活:普通の観光では見えない現実
物乞いの切断されたはずの足が偽物だと知った花嫁は目をまん丸くして驚いたが、あれは日本人のボクでも知っている。全員が全員とまで言わないが偽装が多いのは物乞いが職業としてあり、如何に効率よくお金を頂く彼らなりの工夫なのだ。
ある一般観光客向けじゃない寺院で物乞いに囲まれた際、全員を振り切って寺院を見回って一息した際、ボクに縋っていた物乞い達もバスから降りる他の客が一段落したのか物乞い全員でリラックスして車座になって笑いあって何か話していた。
ボクに物乞いしに来た時にはあれほど必死な形相でゾンビみたいな顔をして金をくれ!的に足に縋りついてきた奴らなのに、今ボクが帰ろうとすると笑顔で手を振ってくれる。
パックパッカーで金がないと分かったのかどうか、彼らはボクに対しもうゾンビみたいな顔をする必要が無くなったのだ。
あれは生活の一部、日常の一部なのだ。
インドであれ、日本であれ、どの国であれ、表と裏があるのはある意味当然だろう。
分かっていてやり過ごす
気付かないまま一生を終える
誤解してストレスがたまる
文化の多様性を尊重:寛容な視点が生む感動
現実の世界に対し対峙の仕方は人それぞれあろうが、この映画の制作者側の人は物事を冷静に判断できていて、感情的に良し悪しとするのではなく、その国らしさを保ちつつ古き中にもいいものがあり、改めるべきものがあり、とユーモアの心をもって示す寛容性があったように思う。
それを登場人物にも反映させているのが、駅の売店で女性一人で力強く生き抜くオバサンだったり、警察署長だったり、じゃないだろうか。
彼らは古いタイプのインド人の生き方をしてきているが、若者たちの熱い生き方に触れ自分たちの古い生き方の「一部」を「少し」変えてみるという寛容性を最後に見せてみてくれた。
駅長も最後は情熱的に助けてくれた。
視覚的魅力:インドの色彩豊かな文化を堪能
最後になるが、自然映像、列車の移動、衣装、タトゥー的な柄、アクセサリー、田舎の家、食べ物、シキタリ、総じて文化をこの映画を観ることにより知ることができてとても良かった。
架空の地域のようだがインドも広く、人口も多いので、実際は地域によって文化差がもっといろいろとあるだろうが、平均値をとっているのだろう。
しらんけど。