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群れになった家族の話(5)

第五章  四月二十四日 
 
  オクラレルカの奇跡
 
 沖縄県大宜味村では、春にオクラレルカの見ごろがやってくるって知ってた?
 沖縄では花見といえば、花ごと散る桜だけれど、私は桜よりも同じ春の訪れを告げる花《オクラレルカ》が大好きなんだ。もちろん、昔から好きだったわけではないけれど、何事もきっかけがあるものだ。
 この日は珍しく群れで遠出をしようということになって・・・みんなで遠出することも社会勉強だとかなんとか・・・。
 大宜味村のオクラレルカは本当にきれいで、のどかで私たち群れはすごく気持ちよく過ごしたんだ。そして、その帰りにコンビニによって・・・何をするためだったのか、何を買ったのかなんて全然覚えいない。
 ちょうどお店から出るときにお店の前に子犬がぽつんと座っている。クリーム色のラブラドールが。飼い主を待っているんだなと思ってみてみると、その子が汚れているので気になって、人間に
「なんかかわいいけど汚れている子犬がいたよ。」
「え~。どこに?」
もう一度その子犬のところへいくと、もうどこにもいない。忽然といなくなっていた。やっぱり野良犬だ。と気づいたときには遅く、どこを探してもいない。後ろ髪をひかれる思いでその場所から離れるしかなかたんだ。それが3月のことだった。
 それからおよそ一か月の間、人間の頭の中にはなんとなくこのコンビニのワンちゃんが引っかかってたんだ。そりゃそうだよね。こんな大通りのそばの危ない場所で、あんなに賢そうに座っている姿を忘れることなんてできないよ。そうして一か月が過ぎた。
 4月。まさか。まさかのあのコンビニでまたワンちゃんに会ったのだ。でも、よく見ると前のワンちゃんとはちょっと違う。でも、今度こそ逃がしてなるものか。でも、今考えると、捕まえてどうするつもりだったのか。私たち人間はどうしたかったのか。ただ言えることは、ただの同情心だけで追いかけたのではないように思う。いや・・・わからない。確かなことはただただ必死だったってこと。
 クリーム色の子を追いかけていくと、遠くにもう一匹のワンちゃん。このワンちゃんは黒白。「あ~完璧に野良犬だ」・・・。
 私たち人間と同じ思いで、この2匹の子犬を気にかけていた行動力のある女性のおかげで、この2匹のワンちゃんを病院に連れていくことに。女の子のワンちゃんはその女性が、男の子は私たちの群れが引き取る(この段階では“預かる”)ということになった。男の子は黒白ちゃんだった。
 警察に届けたら、3か月は取得物ということなので、まずは3か月保護することになった。あのオクラレルカから1か月が過ぎようとしている。
この日は、四月二十一日。本当に、オクラレルカの奇跡の始まり。
 
 クロ改め・・・
 
 犬は(きっと猫も)保護して警察に届けると、『取得物』となって、預かることができなければ、2日後には保健所に行くことになるんだ。もしも、飼い主が見つかるまで保護してくれるのなら、3か月は取得物として預かることができるけどね。でも、なぜ預かることができない場合、2日後には保健所なのかというと、びっくりだけど『なまもの』としての扱いらしい。確かになまものではあるけれど。
 ということで、男の子の『クロちゃん』は我が家の群れで保護することになった。実は、ホントのところ人間はこの男の子を狙っていたんだよ。ひとめぼれ。
 3か月の保護期間とはいえ、確実に野良犬の母親がコンビニ周辺で生み、生まれた時から野良犬のクロちゃんにとって、飼い主が現れるはずもないわけで、ただただ書類上のことだったんだけど、人間はもう家族にすることを決めたので命名しなけれいけないよね。命名といえばこの群れのおきて、名前は家族になると決まった日。保護したのが四月二十一日、家族にしようと決めたのが四月二十四日。さあ、どうなるのか・・・まあ、ほぼほぼ決まりのような感もあるけれど。
 私たち群れが唯一行っているSNSの看板犬の有名なお名前にあやかることも含め、四月は卯月、二十四日はニヨンということで、我が群れの四男坊はクロ改め、ウニヨンと命名したのだ。あるスーパーの名前と間違えられそうなんだけど、いやいやどうして、いい名前だよ。ウニヨン。いい響きの名前!それにぴったりの名前だよ。
 体の大きさ
 
 ウニヨンは、ボーダーコリーにほんのちょっと似ていて。すごくかわいいんだ。顔も、しぐさも、性格もすべてにおいてかわいいの。なんでこんなに穏やかな子なんだろうと、ウニヨンの母親やきょうだいに感謝だよ。
 しぐさのかわいさは、我が家の群れに今まで存在しなかった【中型犬】というところからも来ているのかもしれないね。体は大きいのにパピーのしぐさはもう、たまらなくかわいくて仕方ないんだよ。中型犬なのかもしれないけれど、我が群れの中では【大型犬】としますよ。ウニヨンは四男坊で末っ子なのに、一番体が大きいんだ。特に、警備隊長のジッチと比べると・・・こりゃあ大したもんだ。でも、ウニヨンは自分の体が一番大きいと認識しておらず、警備隊長のジッチ兄ちゃんよりも小さいと自覚しているから笑える。群れでは体の大きさではないんだね。特に我が家の群れではそうみたい。一番体が大きなウニヨンが一番の末っ子で、パピーちゃんなんだ。長男のクイミと警備隊長のジッチがそう決めたのであれば、それに従うんだよ。だから、ウニヨンを怖がっているジュナへ、
「大丈夫だよ君の方がお兄ちゃんなんよ。」
と、教えてあげたよ。
  
  ウニヨンという個性
 
 性格は生まれ持ったものか、環境が関係するのか・・・そんな学問的なことはわからないけれど、末っ子はかわいがられる要素を持っているのかもしれないね。全てにおいてかわいいの一言。確かに、警備隊長のジッチからの洗礼はたくさん、長い間受けたけれど、それでも無邪気に過ごしている姿を見ると健気なほどのかわいさなんだ。本人は全く意識していないのは当たり前だけど、周りを魅了するなにか、引き付ける何かを持っている。だから、瞬く間にウニヨンはみんなのアイドルになったんだ。当然といえば当然の成り行きなんだけどね。(みんなって誰?)
 犬は寛大だよ。動物の中でも一番賢くて寛大なのかもしれないのではないかと思うくらい。半年もしたらウニヨンは完璧に我が家の群れの一員になってくれた。愛くるしい四男坊は正真正銘、群れの一員になってくれた。
 ウニヨンが来てからというもの、笑いが今まで以上に増えたよ。もちろん破壊活動はその数倍は増えたけどね。不思議と、破壊活動が仕事の疲れを「ふっ」ととってくれたりして。それはきっと、今までの慣れというのもあったと思うけれど、この群れの行動が完成されてきて(同じ意思のもとの行動)、なんだかイライラとか怒りというものが全くなくて、幸せを感じさせてくれることが断然に増えていったんだと思う。やっぱり、ウニヨンは奇跡の子だ。この群れは天下無敵の最大幸福の群れになっていったよ。ウニヨンありがとう。本当に君のおかげだ。
 そうそう、オクラレルカの花言葉は、「良い知らせ」なんだよ。

                          第6章につづく

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