受診の経緯①【自傷と向き合う#2】
2024年6月。
例年のごとく、わたしは来る夏に憂鬱になっていました。
暑いのに長袖を着て、自傷の傷跡を隠さなければいけないから。
単に暑さを我慢すればいい、という訳ではありません。
「夏なのに長袖」が不自然に見えたら、「もしかして、あの人、リストカットしてるのかも」と思われてしまうかもしれない。涼しい顔をしていなければ、バレてしまうかもしれない。
夏場でも着れるようなブラウスやカーディガンは、袖の長さが少し短かったり、袖周りがゆったりしていることが多く、何かの拍子に傷が見えてしまうかもしれない。
そうした不安を慢性的に感じながら、日々をやり過ごす必要がありました。
少しでも違和感なく長袖が着れないかと、自分にしては結構なお金を出して、骨格診断&パーソナルカラー診断に行ったりもしました。(努力の方法がおかしいような?)
薄々分かっていましたが、結果は骨格診断ウェーブ。
「長袖しか着られないので、その範囲で似合う服を教えてください」と伝えたのに、「華奢に見せるために、手首や足首を出しましょう」と言われ、悲しくなりました。言っている側に悪意がないのは分かっているのですが、その言葉はわたしの弱くて痛いところに当たってしまうので、すごく傷ついてしまう。
この夏はいつも以上にたくさん服を買った気がします。着てみて、暑くてがっかりすることもたくさんありました。試着では気づかなかったのに、家で着てみると袖丈が短く感じて、買ってけど結局クローゼットに眠ったままになっている服もたくさんあります。
せめて七部袖が着たいと思って、ファンデーションテープを貼ってみたり、アームカバーを色々買って着てみたり。
でもどれも結局違和感があるんですよね。
あと、万一バレたときに言い訳のしようがないな、と。「何を隠してるの?」と思われるのも怖くて、結局職場ではほとんど使えませんでした。
(ただ、プライベートなおでかけのときにはアームカバーを結構使いました。このへんの、傷を隠す様々な方法のレポはそのうちまとめたい)
ずっと長袖を着ているせいか、代謝が少しおかしくなった気がします。顔にばかりたくさん汗をかくようになりました。少し外に出るだけで、流れるほど。肌が出ている場所が顔くらいなので、そういう風に身体が適応したのかもしれません。あとは、やっぱり熱がこもりやすくて、暑い中外にいるとすぐに具合が悪くなるようになりました。
例年暑さは増していくし、今年を乗り越えても来年はもっとつらくなるかもしれない、と思うと、ずっと悲しい未来が続くような気持ちになりました。
これ、どうにかならないかなーと思い、色々と調べました。
これまでどれだけ調べても、この”生きづらさ”を何とかする方法は、見つかりませんでした。
それでもネットの海をさまよってしまう。
どこかに希望がある気がして。
あって欲しくて。
そこで見つけたのが、今回治療を受けるかもしれない、「きずときずあとのクリニック」でした。
そこはどうやら、自傷の傷跡に関する治療を専門的におこなっているらしい。
戻し植皮という方法を使っていることを知りました。
自傷の傷跡の治療というと、レーザーとか、縦長の大きな違う傷に作り変える、というイメージがありました。
しかし、レーザー治療の症例画像を見ても、やっぱり傷跡が残っているように見えてしまったり(目立たなくはなっていると思うのですが)、違う傷に作り変えるのも傷跡の範囲が広いので、自分には不向きかなと考えていました。
何よりどの治療も自由診療扱いになるため高額で、自分で納得できなさそうな方法にこのお金を出すのは難しい、という現実的な理由もありました。
戻し植皮は、「リストカット跡を『軽いやけど痕のような印象に変えること』を目的(公式HPより)」とした治療法で、傷跡のある部分の皮膚を取り、角度を変えて貼り直すものだそうです。
実際に治療を受けた方の画像を見ると、確かに切り傷という印象はなくなっているように思いました。ただ、角度を変えて貼り直しているので縦方向の傷跡は残っていますし、目立ちにくさや違和感などはどうしても写真だけでは判断しかねました。
この治療法を知ったとき、即座に「これで不安から解放される!」「受けてみよう!」とは思いませんでした。
しかし、「自傷の傷跡にここまで向き合おうとしてくれているひとがいる」「こんなに新しい治療法もできてきている」ということそのものが、わたしの心を揺さぶりました。
治療を受けた方のアンケートも公開されていて、同じような悩みを持った人が、治療を受けて、生きづらさを軽減していることが分かりました。
また、こちらのクリニックの院長さんは、日本自傷リストカット支援協会というのと立ち上げていて、その顧問には精神科医の松本俊彦先生の名前がありました。
松本先生は、わたしが一方的に、恩を感じている方です。
十数年前、自分がなぜ自傷するのかも分かっていなかったわたしは、大学の図書館で自傷に関する専門書を探しては読んでいました。
しかし、専門書でも、なかなか腑に落ちる説明がない。自傷に至る背景が色々と説明されているけれど、書かれていることはわたしのことではない気がする。
そんな中で偶然松本先生が翻訳された本や、その後に出版されたご著書を読んで、「アディクションとしての自傷」という考え方が、非常にしっくりきたんです。
自分がなぜ、自傷をしているのかを理解できたことは、自傷をしなくなるために必要なきっかけだったと感じています。(この辺もそのうち書きたい。そのうち書きたいことだらけ)
そんな方と提携しながら、傷跡を治療しようとしている場所がある。
毎年季節が巡ると、「また悲しくなるんだろうな」と思っていました。
希望なんてないよね、と、知りつつも諦めきれずにいました。
そんな世界が、少しだけ、うっすらと、明るくなったように見えました。
自傷やその傷跡を取り巻く状況も、少しずつ変わってきていて、未来はもっとよくなるのかもしれない。
きずときずあとのクリニックの存在は、わたしにそう思わせてくれました。
正直に言うと、それだけで感謝の気持ちでいっぱいです。
でも、治療を受けるところまでは踏み切れませんでした。
高額なのもありますが、この治療を受けることで、わたしが安心できるようになるかは、まだやっぱり分からなかったんです。
傷跡を作り変えても、どうせ気になってしまうのではないか。
わたしが傷跡のことで悩まなくなる未来なんて、存在しないんじゃないか。
そんな気持ちを、ずっと持っています。(今もです)
高額な治療をしても、期待して、うまくいかなくて、がっかりしてしまうかもしれない。
それで傷つくくらいなら、何もしない方がいいかもしれない。
そうした気持ちもあって、縋るようにLINEで友達登録をしましたが、受診には至らないまま、数か月が経ちました。
……書いていて気づきましたが、これまでも、「これで何とか楽になりたい」ってパーソナルカラー診断を受けたり、服をたくさん買ったり、でも全部無駄になってきているんですよね。
どんなにコストをかけても、きっと救われないだろう。そう、「どうせ無駄になる」という気持ち。これが自分の心に深く根ざしている。
経験の積み重ねで、そうなってしまったんだろうなぁ。
自己理解が進みました。いいことです。
思ったより長くなってしまったので、いったん区切ります。
つづきはまた後日。