アイデンティティの壁を乗り越え、危機を乗り切る

アミン・マアルーフ氏の「アイデンティティが人を殺す」という本を読みました。
レバノン生まれでフランス育ちの著者が自身の体験も含め、アイデンティティの違いゆえに排他的な状況やときに対立をもたらすことを書いた書籍です。アマゾンの紹介で理論版「僕はイエローでホワイトでちょっとブルー」と書かれていましたが、まさにそうだと感じました。
私たちは、組織を形成するときにとかく同質性というか共通項を探したがる気がします。「おなちゅう」などと言ったりするように、生まれや育ちなどのアイデンティティに関わるものも少なくありません。本当はバックグラウンドが違うから面白いのだと思うのですが、その面白さを味わう前に排他的な環境を作ってしまっているかもと感じることがあります。
共通項がある人と一緒にいるのは、安心感があるのかもしれませんが、似たようなバックグラウンドの人たちばかりだと刺激がありません。あるいは、大学を出てから何年も経っているのに、学歴のことを気にする人を見たりすると少し気持ち悪くも感じるくらいです。
特にこれから先、企業において今まで遭遇したことのない未来を迎えることを想うと、より多様なバックグラウンドを持った人が集まっていたほうが良いし、そのためにはアイデンティティが多様な人と一緒に仕事をしたほうが気づきが多いです。
ただし、仕事をする場合、根幹の部分でどこか繋がりがないといけないと思っています。
どこかというのは2つの着眼点があります。
プロジェクト型のような仕事の場合には、そのプロジェクトの目的・ミッションを共有し、その中で、スキルや役割が分担できることです。
一過性ではなく、継続的に仕事を行う場合には、価値観が共有できていないといけないと感じています。その価値観が共有できていれば、世界中どこの人でも仕事ができると思っていますが、価値観が共有できていなければ、いくら生まれや育ち、出身大学などアイデンティティと呼ばれるものが近しかったとしても、難しく感じます。
根底が共有できていれば、アイデンティティは関係ないし、むしろ多様さが問題解決力の幅を広げることにつながるが、根底が共有できていなければ、アイデンティティが近くてもうまくいかないし、ましてやダイバーシティありきで多様性を作ってはいけないことだと思います。早稲田大学の入山先生もデモグラフィー型のダイバーシティはうまくいきにくいと指摘していましたが、アイデンティティが違うから良いではなく、戦略や思想が共有できていることが大前提なのだと思います。
その多様さを受け入れるための寛容さは大切に感じます。
自分は今いる組織の中でも少し変わりものの部類で、多様さの一翼を担っているつもりですが、よそから入ってくる人からみたら、組織の真ん中にいる人に見えているかもしれません。何気ない発言が、保守的な雰囲気や排他的な雰囲気を醸し出してしまっているかもと感じることがあります。比較的保守的と呼ばれる土地で仕事をしていることもあり、地元のことを普通に話すことでも排他的に見えてしまっているかもしれません。
そういう点では、自分がもっともっと日頃からいろんな人と接点を持ち、多様性に対して抵抗感なく接することができるようになる必要があると思っています。世代・職業・国籍・宗教などの壁を取っ払い、出会いを楽しみたいと思いました。
改めて、なかなか考えさせられるなと思って、この本のことをよくよく調べてみたら、実は1998年著で、邦訳されたのが2019年ということに愕然としました。
それくらい今のことを書かれている印象を受けてしまいました。
出版から20年経ち、その間、ネットやSNS、スマホなど私たちを取り巻く環境は大きく変わったように感じましたが、アイデンティティの違いによる対立は世界的に見てもまだまだ解消されていないし、自分の周りの保守的・排他的な雰囲気は全く改善できていないことを痛感いたました。

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