慣習を打ち破り、成果をあげたホークスの育成システム

喜瀬雅則さんの「ホークス3軍はなぜ成功したのか?」を読みました。最近は、昔ほど熱心に野球を見なくなりましたが、それでも、千賀投手や甲斐選手が育成出身というのは知っていましたし、周東選手のプレミア12の活躍もすごかったので、興味を持って読むことができました。
例えば、高卒でプロ野球選手になるような人の場合、中学校で一番うまかった選手が、県を代表するような高校に行き、その中で厳しい県予選を勝ち上がり、更に甲子園で目立った活躍をする人に声がかかる世界です。そんな何万人から選ばれるような世界ですから、ドラフト1位だろうが、5位や6位であっても紙一重である気もしています。
プロになって、指名された順位どおりの活躍をする人もいますが、鳴り物入りで入った新人がその後大した活躍をしなかったり、逆に無名の新人が大ブレイクすることもあり、不思議だと感じることがあります。
これは、プロ野球選手に限った話ではないのかもしれませんね。
この本を読んで、3軍というのを単に2軍の下と位置付けるのではなく、育成の考え方をしっかり持つことができれば、結果は自ずとついてくるのだと実感しました。
1つ目は、良い原石を見つけてくることが大切だと感じました。
プロ野球の場合、スカウトの人が全国を探し回るので、能力の高い人は当然取り合いになります。例えば、千賀投手の場合、コントロールは悪かったけど、肘の使い方や肩関節の柔らかさは抜群ということを見抜き、育成選手として指名するわけですが、こういうことが大切だと思います。短所に目をつぶり、長所を見ること、結果系は後から何とでもなるので素質を見ることです。これは企業の採用でもいえますが、実際にはなかなかそれができていないのではないかと思います。欠点や懸念事項ばかり見てしまうこと、学歴や現時点での能力の高さにばかり目がいってしまいがちな気がします。後から鍛えればいくらでも伸びるところは目をつぶるくらいの寛容さがあると、原石を見つけることができるのではと思います。
2つ目は、ハングリーさを持たせることの大切さです。
プロ野球という憧れの場に入ることができたわけですし、ファンやメディアからも注目され、ちやほやされるので、そこである程度満足したり、気が緩むこともあると思います。
ホークスには、日本代表クラスの選手がたくさんいて、しかも2軍も選手が豊富にいるので、素質があるけどまだ結果が伴っていない3軍の選手にとってはとてつもない壁があるように感じるということです。
その一方で猛烈に練習する環境だけは整っているということです。甲斐選手は育成で入ったとき、同期のドラフト1位は同じ高卒の捕手だったのですが、入団当初は注目度も全く異なっていたそうです。しかし、苦手な守備練習をとにかくこなし、猛烈に練習していく中で克服していきます。そして元々の武器であった肩を活かし、ついに1軍にあがることができ、日本シリーズMVPまで上り詰めることができたということです。
これは企業においても同じで、何歳になっても、まだまだ足りないとか、もっとやらなければという渇望感をいかに抱くかではないかと思います。ある瞬間はアウトプットしたことに満足したり、努力してきたことに納得することも大切ですが、未来を見据えたときに、これではダメだ、もっと頑張らないとまずいと思えるようにならないといけない気がします。
3つ目は、育てる思想の大切さです。
プロだから短期的な結果を求めがちですが、そうではなく、あくまで1軍に昇格して活躍することを目的とし、日々のトレーニングや栄養摂取などをしていくということが書かれていました。2軍で試合をさせたり、そこで結果を出すことも大切なのかもしれませんが、3年後、5年後を考えたときに何が必要なのか考えて、長期的観点から一貫性を持って育てることが大切だと感じました。
日本の企業においても、終身雇用が前提ではなくなっていることもあるためか短期的な成果を求める傾向にある印象を受けています。
しかし、終身雇用が前提ではないとしても、20代前半から70歳まで50年近くあったとして30回も40回も仕事を変えるわけではなく、おそらく10年くらいを1つのサイクルとして4-5社くらい経験していくのが現実的なキャリアになるのではないかと思います。
そうやって考えたときに、短期的な成果ばかり求めていては企業側にとってもメリットが少ないのではないかと感じます。すぐに役立つものはすぐに役立たなくなるなどと言いますが、目先にこだわりすぎると、2-3年は良いと思いますが10年という単位で活躍できるかというと疑問を感じます。特に環境変化が激しいと言われる昨今だからこそ長期的な育成の視点を持ち、新卒であっても中途採用であっても育てていく、鍛えていく視点が大切だと感じます。
3軍制度を定着させるためには、内部だけでなく、外部からも冷ややかな反応があり、苦労も多かったと聞きます。しかし、関わったメンバーが信念を持ち、やり続けたことで、今日のホークスの地位ができたと思います。育成選手、3軍という制度ができ、高卒・大卒時点で完成されていなくてもプロとして大成できるという道を示したことは素晴らしいことで、裾野を広げたのではないかと思います。企業においても、大卒時点の完成度ではない尺度で捉え、育て・鍛えていくことができたら、今まで以上に企業も個人も大きく飛躍できるのではないかと感じました。

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