ESからウェルビーイングへの転換

「わたしたちのウェルビーイングをつくりあうために - その思想、実践、技術」という本を読みました。ウェルビーイングは雑誌wiredなどでもたびたび取り上げられているテーマです。
企業内においては従業員満足(ES)という言葉が使われることがあります。あるいは働きやすさのようなものがランキングされているものを見かけることがあります。
そういうもので取り上げられる企業は福利厚生が充実していたり、人事制度が立派なものが整備されている企業が多い印象を受けますが、私の性格がひねくれているせいか、すっきりしないものがあります。
幸福度と最も相関があるものは1人あたりのGDPと言われたときに、新興国を含めるとそれは正しい気がします。最低限のインフラが整備されていて、教育や医療が充実していることはありがたいことだと感じます。
その一方で、今回のような騒動がないとなかなか日々の医療の充実度やそれがもたらす幸福というのは実感しにくく、高度成長期やそれ以降の日本の人生の満足度は横ばいであったというデータをみたときに、妙な納得感があります。

企業においても、似たようなことがある気がしています。企業によって温度差はあると思うのですが、過酷な労働環境は少しずつ是正され、昔に比べて随分働きやすくなっていると思います。労災も年々減少していることを見ると、製造現場や建設現場などの安全確保も随分進んできているのだと思います。でも満足度があがっているのかというと疑問を感じますし、仮にこの数十年間、社員満足度はほとんどあがっていないデータを見たら、納得してしまうのではないかと思います。
最低限の給与や、安全性の確保、最低限の公平性は必要だと思うのですが、それはあくまで不満をなくすためであり、満足度を追求していくためにはそれだけではダメだと思っています。それはハーツバーグの動機付け理論でも言われていることであり、衛生要因だけでなく、やりがいを求める動機付け要因が大事だということにも繋がってきます。
要はやりがいのある仕事をしていき、自己実現的な欲求を満たしていくことが、本当の従業員満足やこの本でいうウェルビーイングに繋がっていくのだと思います。
しかし、現実はそう簡単ではない気がします。例えば、若い人は褒められたことがないと嘆くとか、承認欲求は高いけど、褒めたその先にやりたいことが出てくるわけではなく、なかなか仕事を通じた満足に繋がらないという話を聞くことがあります。
これは単に私が過去の自分の姿を省みることなく、イマドキの若いものは・・・と見てしまっている可能性もあるのですが、若い人の真の満足要因、真のウェルビーイングを捉えきれていないのだと思います。
この本を読んで、そのカギの1つは個のウェルビーイングをどうやって満たしていくかだと思いました。
極端な話になってしまうのですが、ES調査で5点満点だったとして、組織の平均点が3点を下回っていたらダメなのかもしれませんが、3点を上回っていたら、一旦良しとして、あとは3.5点を4点にすることをあえて考えないのも1つだと思いました。
要は組織の平均点を上げるのではなく、個人の好みにフォーカスしていくのです。個々人の小さな声や些細な好みを拾っていき、それを満たしていくと良いのかもしれません。満たしていくというとおこがましいですね。満たせるようにサポートするくらいの表現が適切ですね。それによって、全体の生産性やアウトプットの質が落ちてはいけないですが、そうでない限りは、もっと個を尊重しても良い気がします。
管理・監視が楽だからと、1つの型にはめようとしたり、1つの考え方に揃えようとすることがいけない感じがします。多様な好みを受け入れる寛容さを持つことができれば、もっともっと居心地がよくなるし、居心地がよくなれば良いアウトプットが出てくる気がします。
そういう点では、寛容さはまだまだ足りない感じがします。私たちは、日頃すり合わせをしようとして過度な摩擦を生じている気がします。
その結果、最初から主張しなくなることが起こっているのかもしれません。すり合わせをしようとせず、上司の意見に表面的に逆らわないことがもめずにストレスが溜まらないという処世術を身につけてしまっているのかもしれません。
この本の途中に、アフリカのある民族で、ボナンゴという人々が勝手に喋って、特段その会話に絡まない例が紹介されていました。
好き勝手なことをいうけど、干渉もしないというのは良いなと思いました。
内向きな組織、保守的な組織だと些細な発言、行動に過度に反応しがちです。
そうではなく、はみ出す人・行動にあえて反応せず、多様さを認めていくことで、1人ひとりが存在感を発揮できれば良い気がします。
理想は1人ひとりの持ち味をきちんと理解・共感しあうことなのかもしれませんが、他人の思考プロセスや価値観を理解するのは大変難しく感じるので、まずは寛容になることからなら始められる感じがします。
こういう時代だからこそ1人ひとりのウェルビーイングを見つめてみたいと思いました。

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