社外取締役だけでなく取締役にも監査役にも読んでほしい一冊
チャールズD. レイクIIさんの「社外取締役の兵法 グッドガバナンスの実践」という本を読みました。著者が外国の人なので、海外企業の事例をベースに社外取締役について整理した本かと思いましたが、良い意味で裏切られました。著者はアフラックの社長、会長だけでなく、東京エレクトロンや日本郵政などの社外取締役を務めた人で日本企業に精通している人でした。
一冊通して読んでみると、企業を取り巻く環境が変わる中、社外取締役に求められる役割・期待は大きくなるばかりだと感じました。
一方で、この本に書かれているような視点を持って、社外取締役を務めるのは大変だと思います。
その理由の1つ目は、当該企業の理解、特に企業文化も含めた深い理解の難しさではないかと思います。まだまだ日本には経営のプロは少なく、企業のことをしっかり理解できる人は少ない印象があります。業界構造や戦略を理解するとも難しいですが、企業文化まで理解したうえで、分析したり提言していくのは至難の技だと感じました。
2つ目の理由は、幅広い知識を有したうえで、発言していくことの難しさです。例えば、会計士出身の社外取締役だとファイナンスのことはよくわかるけど、マーケティングや生産のことはほとんどわからないということもあったりします。しかし、上場企業を中心に取締役の人数を絞り、社外取締役の構成比率を高めてきている昨今、私は◯◯の専門家だから、××はわからないという言い訳は通りなくなってくるのではと感じました。
3つ目は、体系的・総合的に分析、提言することの難しさです。要は正論を言っているつもりでも戦略に全く従属していないことを言ったり、ファイナンスとリスクマネジメントが結びついていなかったりすると、誤った舵取りになりかねないということです。特に社外取締役は何かの分野の専門家として招聘されることも少なくないと思いますので、余計に偏った見方にならないよう注意が必要ではないかと感じました。
大変だとばかり書きましたが、これからの社外取締役はこうした知識を身につけ、企業に対してしっかり発言していかないといけないのだと思います。そうでないと、海外企業との競争に勝ち残れないのでしょう。
そういう点では、この本は社外取締役に求められる役割や必要な知識などが書かれていて、これから社外取締役になる人はもちろんのこと、取締役になる人や取締役を支える経営幹部が読んでも役立つ本だと感じました。必要な知識については、経営戦略やファイナンスだけでなく、デジタルイノベーションなどのことまで触れていて親切に作られている感じがしました。また、参考文献も非常に多く書かれていて、ここから深掘りしていきたい人にとっても役立つと感じました。
あえていえば、最後に記載されていた資質や心構えについてはもっともっと強調して書いても良いと思いました。著者は百戦錬磨の方で数多くの試練を乗り越えてきたのだと思います。その経験からいえる姿勢や覚悟、責任感のようなことを伝えていただけるとよかったのにと思いました。
そのことを差し引いても社外取締役の入門書としては非常に完成度の高い一冊で大変勉強になりました。