
マッチングアプリの憂鬱:SIDE W 第2話
そもそも私達は出会ったその日にセックスを試みるところまで行った。お互いまあまあ忙しく最初に会う日を決めるのに手間取ったため、食事だけで解散しては次に会う事は二度と無い様に思えたのだ。それぐらいマッチングアプリというのは流れが速く、選択肢に溢れていて、一瞬目を離しただけでこの男が見えなくなるとその時の私には思えた。
初めて会った日、私達は中央線沿線にあるスパイスカレーと種類豊富なクラフトビールが売りのお店で昼食を摂りながら話し三杯ほど飲み、二軒目に昼から飲める大衆居酒屋に行き日本酒や梅水晶をつまんだ。そのお店を出た五時頃で私は娘が夕飯を待っているから帰ろうと半分は思った。だがもう半分は、この男逃してなるものかと思っていた。当然後者の自分が勝ち彼の家の近くの公園に行った。池を眺めながら、物事の核心では無く周縁をなぞる様な会話を延々とした。蚊に刺されながら。この蚊やら湿気が無ければエリック・ロメールの映画の登場人物みたいだねと私は言った。そう、私達は驚くほど「趣味の項目」が一致している所からマッチングしたのだ。おまけに同じ歳で、相手はドストライクの髭ロン毛パーマ長身男ときている。こんな事が有って良いのだろうかと感嘆しながら私はマッチング後すぐにデートを申し込んだ。明日会いたい、少なくとも一週間後には、と思いながらも休みが一致するのは二週間後だった。今思えばこの時点で時間を作れない相手だと察すれば良かったのかもしれないが、アプリ初心者であり頭に血が上った私にその考えは無かった。