S&P500と全世界株を1:1で持つ戦略の是非とその可能性について
このエッセイは、資産運用に関心を持ち、特にリスク分散とリターン向上のバランスを考えたい投資家、特に初心者から中級者の方々に向けて書かれています。
ここでは、S&P500と全世界株(MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス、以下ACWI)を1:1で組み合わせる投資戦略について、そのメリットとデメリットを解説し、実際にどのような効果が期待できるのかを検証していきます。
はじめに:分散投資の意味とは?
分散投資は、リスクを減らし安定したリターンを得るために欠かせない手法として広く認識されています。
そのため、S&P500とACWIを1:1で持つ戦略に対し、分散の効果が薄いのではないか、あるいは非効率な投資方法ではないかという批判が時折聞かれます。
この批判の背景には、S&P500に含まれる企業が既にグローバルな収益構造を持ち、国際分散が実質的にできているという考え方があります。
しかし実際には、S&P500とACWIを1:1で持つ戦略には独自のメリットが存在します。
特に、米国の成長を享受しつつも、地政学的リスクや地域ごとの経済の変動に対して備えられる点が魅力で。
では、この配分がどのようにリターンとリスクのバランスに影響するのか、さらに深く考察していきましょう。
ジョン・C・ボーグルの教え:米国外の株式は20%で十分?
インデックス投資の先駆者として知られるジョン・C・ボーグルは、生前、「米国外の株式は全ポートフォリオの20%以下に留めておくべきだ」と述べていました。
彼は、米国市場が長期的に世界の経済をリードし続けると考え、米国株中心のポートフォリオがリスクとリターンのバランスを取るために最も適切であると主張しました。
S&P500とACWIを1:1で組み合わせると、結果として米国株が80%、米国外株が20%の割合になります。
この配分は、ボーグルのアドバイスに近く、米国市場の成長に重きを置きながら、国際分散によってリスクも一定程度低減できるため、多くの投資家にとって合理的な戦略となり得ます。
つまり、この戦略はボーグルの考えに基づきながら、現代の国際投資の要素も取り入れたバランスの良いアプローチといえます。
メリット:S&P500と全世界株を1:1で持つ利点
メリット1: 米国市場の成長ポテンシャルを享受
S&P500に含まれる企業の多くは、テクノロジー、ヘルスケア、金融など成長産業で強い競争力を持っています。
例えば、過去10年間の年平均リターンを比較すると、S&P500は約10%のリターンを示しており、ACWI全体の8%前後のリターンを上回っています。
このように、米国市場の成長を取り込むことで、リターンの向上が期待できます。
メリット2: 国際的なリスク分散が可能
ACWIには、先進国から新興国まで、さまざまな企業が含まれています。
米国が景気後退に見舞われた場合、他の地域が経済成長を見せることで、全体のポートフォリオが安定する効果が期待できます。
たとえば、アジアやヨーロッパの市場が成長している局面では、米国市場の不調を一部補完してくれる可能性があります。
メリット3: 円安・円高リスクへの耐性
日本の投資家にとって、海外投資には円安・円高リスクが伴います。
しかし、米国だけでなく他の国々の資産も持つことで、為替リスクも分散できます。
特に、米ドル以外の通貨が組み込まれるため、円高時に他の通貨が支えとなり、ポートフォリオのバランスを保ちやすくなる点も利点です。
デメリット:この戦略の限界
デメリット1: 管理の煩雑さ
S&P500とACWIを1:1で持つと、地域ごとの経済状況、為替リスク、さらに各国の税制にも気を配る必要が出てきます。
ACWIには米国外の株式も含まれるため、米ドル以外の通貨もポートフォリオに影響を与えます。
特に為替の影響が大きくなることで、リスク管理が難しくなる場合があります。
また、リバランスの際にも手間が増えるため、手間をかけずにシンプルに運用したい人には向かない可能性があります。
デメリット2: 市場の時価総額加重から外れる
時価総額加重の理論に基づくと、世界全体の株式市場の価値に比例して投資することが、最も効率的な分散投資であるとされています。
しかし、S&P500とACWIを1:1で持つと、米国への投資が時価総額加重よりも高くなるため、ポートフォリオが米国に偏りすぎる可能性があります。
この偏りが、市場の景気循環に応じたリスクを高める場合があるのです。
デメリット3: 米国依存のリスク
米国株を80%も組み込むことで、米国市場の成長に強く依存することになります。
もし米国が景気後退に入った場合、他国の成長では十分に補えない可能性があるため、この偏りがリスク要因となり得ます。
特に、米国の金利政策や政治的な不確実性が影響を与えやすいため、この点も注意が必要です。
実際のリターンとリスクを検証
S&P500とACWIの年平均リターンをもとに、この戦略のリターンをシミュレーションしてみましょう。
S&P500の年平均リターンが10%程度、ACWIが8%程度であることを前提とした場合、1:1で組み合わせると、ポートフォリオ全体の期待リターンは約9%になります。
ボラティリティ(リスク)についても、S&P500単体よりもACWIの組み入れによって一部が軽減されるため、比較的安定したリターンが見込めます。
さらに、ACWIには新興国市場も含まれるため、米国市場と異なる成長ポテンシャルがポートフォリオ全体にプラスの影響を与える可能性があります。
たとえば、米国市場が低迷する中で新興国が成長していれば、ポートフォリオ全体のリターンが下支えされるという効果が期待できるのです。
想定される反論とその対処
反論1: 米国市場への依存が高すぎるのでは?
確かに、米国市場の割合が80%に達すると、米国依存度が高くなるとの指摘は避けられません。
しかし、S&P500の構成企業の多くは国際的な収益を上げているため、必ずしも米国国内の経済状況に左右されるわけではありません。
例えば、AppleやMicrosoftのような企業は、収益の大部分を海外から得ており、間接的に国際分散の効果を享受できるのです。
反論2: 全世界株インデックス一本で十分では?
全世界株インデックス(ACWI)一本で投資を行うのも確かに合理的な選択肢です。
しかし、米国市場の成長をより多く取り込みたい場合、S&P500とACWIを1:1で持つ戦略には意義があります。
全世界株インデックス(ACWI)は、米国を含む世界の株式市場を幅広く網羅していますが、その米国の比率は55〜60%程度です。
S&P500を加えることで米国市場の成長への比重を増やし、特に米国市場が好調なときにはポートフォリオ全体のリターンを引き上げる効果が期待できます。
反論3: リバランスの手間が増える
S&P500とACWIを1:1で組むことで、ポートフォリオの比率を一定に保つために定期的なリバランスが必要になります。
この手間が気になる場合、リバランスを自動的に行ってくれるファンドやロボアドバイザーを活用する方法もあります。
リバランスが手間だと感じる投資家にとって、これらの手段は合理的な選択肢となるでしょう。
まとめ
S&P500と全世界株(ACWI)を1:1で持つ戦略には、メリットとデメリットの両面があります。
この配分により、米国市場の成長性を最大限に活かしつつ、他国市場を通じてリスクを分散することが可能です。
特に、インデックス投資の父ジョン・C・ボーグルの提言に沿った「米国外20%」のバランスを自然に達成できる点は、長期投資において一定の安心感を与えます。
もちろん、時価総額加重や管理の手間、米国依存のリスクといった課題もあるため、各投資家の目標やリスク許容度に合わせた検討が必要です。
しかし、米国市場の成長を重視しながらも他地域の経済的な成長やリスク分散を取り入れるという点では、この1:1戦略は投資家にとって有力な選択肢の一つとなり得るでしょう。
結果として、この配分がもたらすリターンの向上やリスクの軽減効果は、多くの投資家にとって長期的に有益であると考えられます。