見出し画像

カラオケ ミラクル


友人たちとカラオケBOXに集まった週末の夜。数杯のビールが体に染み渡り、みんなのテンションは最高潮。
「今日は何でもありだ。」
歌うも良し、叫ぶも良し。そんな雰囲気が部屋を包み込んでいた。

マイクを手に取ったタカシが選んだのは、誰もが知るアップテンポなロックナンバー。最初のサビに差しかかった瞬間、不思議な現象が起きた。
歌詞の通りに、部屋が揺れ始めたのだ。

「えっ、なんだこれ?」と全員が顔を見合わせる。タカシも驚いた表情を浮かべ、しかし歌うのをやめようとはしない。次の歌詞で「空に舞い上がれ!」と叫んだ瞬間、彼の体がふわりと浮かび上がり、天井ギリギリまで飛び上がった。

「ちょ、ちょっと待てよ!これ何かのトリックか?」ケンジが慌てて辺りを見回すが、装置や仕掛けの類は見当たらない。仲間たちも口を開けたまま、呆然としてタカシを見上げている。

タカシがようやく降りてくると、彼自身も放心した表情で、「おい、俺なんか浮かんでたよな?」とみんなに確認するように言った。全員が頷き、そして同時に笑い出した。

「どうなってんだこれ?やばいって!」誰かが叫ぶ。

「これは偶然だろ?俺がやってみる」と、次にリュウジがマイクを握った。彼はバラードを選び、歌詞に込められた言葉を丁寧に紡ぎ出した。その内容は、失恋した男性が涙を流し続けるというものだった。リュウジが「泣いても泣いても涙は止まらない」と歌った途端、彼の目から大量の涙が溢れ出した。

「おいおい、マジで泣いてるのか?」ヒロシが驚いた声で言うと、リュウジは必死に目を拭きながら、「違う、これ、本当に止まらないんだ!」と悲鳴を上げた。

「嘘だろ…タカシに続いてリュウジも?」仲間たちが信じられないという顔で顔を見合わせた。笑うべきか心配すべきか、みんな困惑の表情を浮かべている。

「これ、歌詞通りになってるのか?」「いやいや、そんな馬鹿な…」口々に囁く友人たち。

「でも、さっきから明らかにおかしいだろ!」ケンジが不安げに言うと、全員がシーンと静まり返る。全員の視線がリュウジに注がれ、彼の涙がますます止まらなくなるのを見て、ようやく誰かが叫んだ。

「ヤバすぎるって!次、ケンジ、お前がやれよ!」と笑いながら、ケンジにマイクを手渡した。

ケンジは怖いもの見たさで次の曲を入れた。それは、ヒップホップ調の歌で「金が湧いてくる」という歌詞があった。彼がそれを歌うと、部屋の四方からコインやお札が飛び出し始めた。全員が歓声を上げる。夢のような出来事に喜びつつ、彼らはその歌の後の歌詞に気づいていなかった。それは「金は消え去り、すべてが空っぽに戻る」というものだったのだ。

案の定、次の瞬間、部屋の中のすべての物が消え、裸同然の姿で立ち尽くす彼らの姿があった。思わず笑いが止まらない。
彼らは最後にこう叫んだ。

「次は、もっと慎重に選ぼう…」

いいなと思ったら応援しよう!