「ジョン・F・ドノヴァンの死と生」を観て
ゲームオブスローンズのキット・ハリントンが主演していることと、グザヴィエ・ドランが気になったので視聴。キット・ハリントンって声に出して読むとハリントンかどうか自信がない感じで好きです。
ハリントンの演技がいい。ものすごく表情が豊かというわけではないけれど、ふとした表情や仕草が上品で、影があって、世間が持つアイドル的なイメージとは裏腹にドノヴァンが実は繊細な人物なんだろうなということが伝わってくる。後半の湯船に浸かって煙草を吸うシーン。ドノヴァンの最期を知っているだけに、家族と楽しそうに話している姿が切なく尊い。
ドノヴァンからルパートへの最後の手紙。手紙の具体的な内容が明らかになるのはこの最後の手紙のみで、映画を観る前はドノヴァンと少年の手紙のやり取りを中心としたハートフルめな内容を予想していたので意外だった。「自分を偽ることは避けられない」という言葉が最も印象的で、この映画のテーマにもなっていると思う。自身の過去や性的嗜好を隠しながら華やかな俳優業をこなしていく中で、徐々に精神を病んでいくドノヴァン。偽ることは避けがたいことを認めたうえで、それでもルパートには強く生きていくことを願っている。ラストシーンは、青年になったルパートがドノヴァンの願い通り、むしろ願いを超えて、自分を偽らずに生きていることが判明する。強かに生きるルパートの姿により、本作がただドノヴァンの死を描いた暗い作品ではなく、ささやかな希望の物語でもあったことがわかった。