『四則演算の文章術 劇的に伝わる20のテクニック(ICE新書)』第1章まで無料全文公開!
2021年3月30日に発売された書籍『四則演算の文章術 劇的に伝わる20のテクニック』(著:水島なぎ)の第1章までを無料全文公開いたします!
まえがき
はじめまして、水島なぎと申します。私は資格学習書・実用書の出版社に勤めた後、図書館司書を経て、フリーランスのライター・編集者・校正者として活動してきました。
本書は、日常的に文章を書く人の手引きとなる入門書です。メールやチャットなどの文字ベースのコミュニケーション、報告書や企画書といったビジネス文書など、ビジネスには「文章を書くこと」が欠かせません。ビジネスパーソンはもちろん、Webライティングやブログを始めたばかりの人にも役立てていただけます。文章のプロであるライターや編集者の方たちには、「ここはもう少しわかりやすく書きたい」といった場面でヒントにしていただけるはずです。
文章をわかりやすく書こうとしてこねくり回し、余計にドツボにはまってしまう経験は私にもあります。言葉と言葉の組み合わせには無限の可能性があり、正解はありません。だからこそ、「どう書けば伝わる?」と悩んでしまうのです。
本書では、この「どう書けば伝わる?」という悩みを解消するため、今すぐ使えるテクニックを20個に厳選し、ビフォー・アフターの例文つきでやさしく解説しています。
もちろん、すでに世の中にはすばらしい文章術本がたくさんあります。出版社の編集者時代からフリーランスになった今に至るまで、私もたくさんの文章術本を読み漁ってきました。大学図書館に勤めていたときは、学生向けの文章術本を複数仕入れた経験もあります。
一言に「文章術」といっても、基本的な考え方や具体的なテクニックはさまざま。すべてのテクニックを網羅して覚えるのは大変ですし、なかなか使いこなせませんよね。
それに、個人的には文章術本に不満を感じることもありました。たとえば、例文が少ない本や、ダメな例文はあるのに改善案がない本。「結局、どう直せばいいの?」と、読んでいてモヤモヤします。すばらしいテクニックがたくさん紹介されているのに、読了後にテクニックを検索しにくい本も多く、残念に思っていました。
そこで本書では、誰もが算数で習った「四則演算(+/-/×/÷)」をフレームとし、具体的なテクニックをあてはめました。コンセプトは、「読みやすく・覚えやすく・使いやすい」です。
本書のコンセプト
・読みやすい
・覚えやすい
・使いやすい
読みやすい理由は、1時間前後で読了できるボリュームだから。日本人の読書速度は、一般的に1分あたり400~600文字前後とされています。本書は要素を絞り、約4万2000文字にまとめました。読むのが速い人なら約1時間、じっくり読む人でも1時間半ほどで読了できる想定です。
覚えやすい理由は、文章術のテクニックを20個に厳選したからです。誰もが小学校で習った、四則演算の「足す・引く・かける・割る」に紐づけてご紹介しています。
さらに、私が過去の文章術本に感じた課題を解決し、使いやすい本にしました。具体的には、次のような工夫をしています。
・全テクニックに必ず例文と改善案を添え、ビフォー・アフターを明示する
・目安として例文と改善案に文字数を添える
・最終章に全テクニックの一覧を掲載し、検索しやすくする
本書を読了した後は、最終章の「全テクニック一覧」にしおりを挟んでおいてください。ここだけ読めばすぐ使えるのも、本書の強みです。
┗四則演算の文章術とは
ではさっそく、「四則演算の文章術」の概要からご説明します。
四則演算とは、足す(+)、引く(-)、かける(×)、割る(÷)という基本的な算術の総称です。小学校で習った足し算・引き算・かけ算・割り算を思い出してください。これに文章術のテクニックをあてはめると、次のようになります。
●【+】足す=相手にしてほしいことを「足す」
●【-】引く=余分な情報を「引く」
●【×】かける=言葉と言葉を正確に「かける」
●【÷】割る=長い文章を2つに「割る」
この四則演算に紐づけながら、今すぐ使える文章術のテクニックを全部で20個ご紹介します。ただし、本書を読み進める前に1つだけ覚えておいていただきたい原則があります。
それは、「文章には、たったひとつの正解はない」ということ。
文章は自由です。何をどう書いても構いません。
小説や随筆は、文法やテクニックを超えて書き手の個性や書き癖が出ているほうが面白いですよね。ビジネスメールだって、様式を無視してもいい。要件さえ伝わればそれでいい……それもひとつの考えです。
でも、「誰かに読ませたい」「こういう人たちに伝えたい」といった目的がある文章なら、読みやすくなるように、伝わるように工夫すべきです。文章には、たったひとつの正解はない。だからこそ、迷ったときのヒントにしていただけるよう、本書は答えのひとつを提示します。
文章を書きながら悩んだときは四則演算を思い出し、「足す・引く・かける・割る」のテクニックを試してみてください。それでもうまくいかなかったら、元に戻したり、ほかのテクニックを試したりしてください。試行錯誤を通して、「残念な文章」が「伝わりやすい文章」に生まれ変わるはずです。
第1章 【+】読み手にしてほしいことを「足す」
【足すテクニック】
足す①読み手にしてほしい「行動」を足す
足す②読めばわかることも丁寧に書き足す
足す③行動のハードルを下げるために悩みに寄り添った「情報」を足す
足す④具体的にイメージしてもらうために「数字」を足す
足す⑤PREP法にもとづき「理由」と「実例」を足す
四則演算の文章術、1つ目は「足す」テクニックです。今ある文章に何かを「足す」ことで、読み手の行動をうまく誘導できます。
たとえば、こんな経験はありませんか?
「取引先に見積もりを送ったけど、確認してもらえたか不安……」
「友人に待ち合わせ日時を送ったのに返事がない。あの日時でよかったのかな?」
「電話で折り返してほしかったのに、長文のメールが送られてきた……」
ビジネスメールやプライベートのメッセージで、思うような返事が返ってこなかった。期待していた行動とはかけ離れた反応が返ってきた。こうなると、不安や戸惑いを感じますし、コミュニケーションに余計な時間と手間がかかってしまいます。
原因はいろいろあるかもしれませんが、多くの場合は「読み手にしてほしい行動が文章のなかに具体的に書かれていなかった」のが原因です。
こういった現象が起こるとき、書き手側が「(相手が)~して当然(もしくは普通)だろう」と思い込んでいるケースも少なくありません。
たとえば、見積もりを送ったら確認するのが当然。待ち合わせの日時の連絡には了承の旨を返信するのが当たり前。こんな長い要件はメールじゃなくて電話してくるのが普通……といった具合です。
なかには思い込みと言い切れず、常識レベルの「当然」もあるかもしれません。でも、立場が変われば常識も変わります。相手の常識と自分の常識が同じとは限りません。自分とは違う方向に思い込んでしまっている相手もいるかもしれません。だからこそ、普段は同じようにやっても伝わるのに、うまく伝わらないという事態を引き起こします。
この現象を防ぐコツ。それは、読み手にしてほしい「行動」を足すだけです。
確認してほしいなら、「確認してください」と書いて伝えましょう。
返事を送ってほしいなら、「返事待ってるよ」と書いて伝えましょう。
電話で折り返してほしいなら、「折り返しお電話いただければ幸いです」と書いて伝えましょう。
忘れてはならないのは、読み手は書き手の想いまで汲んで文章を読んではくれない、ということ。どんなに言葉を尽くしても、正確に伝わらない可能性はあります。だからといって、きちんとわかりやすく書かなければ、相手に伝わる可能性は限りなくゼロに近くなります。そのために有効なのが、本章で紹介する「足す」テクニックです。
「足す」テクニックは、今ある文章を改善するのにもっとも簡単な手段です。特に、読み手になんらかの行動を促したい文章に有効なので、ぜひ使ってみてくださいね。
次の項からは、ビジネスメールや商業ライティングなどのシチュエーション別に、具体的な例文を挙げながら解説します。
┗【足す①】読み手にしてほしい「行動」を足す
まずは、ビジネスメールやメッセージツールで役立つテクニックをご紹介します。相手からの返信率をよくしたり、望んでいた回答を得たりするために役立つのが、「読み手にしてほしい行動を足す」というテクニックです。
ビジネスメールやメッセージを送るとき、「よろしくお願いいたします」などのありきたりな締めくくりで終えてはいけません。メールの最後に何と書けばおさまりがいいのかわからず使ってしまいがちですが、残念な文章の代表例です。
たとえば、打ち合わせの日程を伝えたい場合のメール本文について、例文と改善案を見てみましょう。
【例文1】
○○様
いつもお世話になっております。○○社の○○です。
打ち合わせの日程につきまして、
6月2日(火)の11時から12時でいかがでしょうか。
よろしくお願いいたします。(81文字)
【改善案1】
○○様
いつもお世話になっております。○○社の○○です。
打ち合わせの日程につきまして、
6月2日(火)の11時から12時でいかがでしょうか。
ご返信のほどよろしくお願いいたします。(87文字)
多くの方は、打ち合わせの日程についてのメールを受け取ったら「かしこまりました」などと返信してくれるでしょう。しかし、なかには「6月2日だな。うん、いける」と自分一人で納得し、返信してくれない人もいるかもしれません。
メールでのコミュニケーションに慣れている方にとっては意外な対応かもしれませんが、メッセージツールの既読文化に慣れているがゆえに、そういう風に自己完結してしまう人もいるのです。
例文1だと、メールを送った側は、了承の返事が来るまで「6月2日に決めたけど、相手は本当に大丈夫かな?」と頭の片隅に不安が残りますよね。確実に返事をしてほしいのなら、「いかがでしょうか。よろしくお願いいたします」だけではちょっと弱いです。
改善案1ではたった一言、「ご返信のほど」と足しました。これだけで、メールの読み手には「このメールには返信しないといけないんだな」と伝わります。要するに、キーワードとして「返信」を相手に明示することで、返信するという動作がタスク化されるのです。
一言、「ご返信のほど」と足しておくと、もう1つ良いことがあります。誰だって人に催促のメールをするのには気を遣いますが、これなら万が一返信がなかったとしても、こちらから催促しやすくなります。
Eメールのメリットは、24時間気軽に送信でき、受信した側のタイミングで内容を読めること。裏を返せば、ちゃんと読まれたか確証がもてないというデメリットでもあります。この点を認識しておくだけでも、コミュニケーションの行き違いを減らせるはずです。メッセージツールによっては「既読」で判断できる場合もありますが、目を通しただけの「既読」より、相手から正式に了承の旨を聞ければなお安心ですよね。
ほかには、こんな一言を足すのもいいでしょう。
・「ご検討のほど」よろしくお願いいたします。
・「ご確認のほど」よろしくお願いいたします。
・「折り返しお電話を」よろしくお願いいたします。
一言、相手にしてほしい行動を「足す」だけでいいんです。そうすれば読み手に「今、ボールは自分の手元にあるんだな」と伝わります。
┗【足す②】読めばわかることもあえて丁寧に書き足す
ビジネスメールやメッセージツールでは、資料を添付するケースも多いですよね。こんな文章を添える人がほとんどかと思います。
【例文2】
お見積書をお送りします。
ご確認のほどよろしくお願いいたします。(31文字)
【改善案2】
お見積書をお送りします。
添付ファイルをご覧くださいませ。
ご確認のほどよろしくお願いいたします。(47文字)
例文2を送り、「資料を添付しているのは見ればわかるし、確認してほしいと書いたから、相手もわかってるはず。だから添付資料を見てくれるよね」……と考えるのは危険です。なぜかというと、誤解を生んでしまうから。まったく同じ文面でも、「見積書は郵送されてくるのかな?」とか「後から別のメールで改めて送られてくるのかな?」とも読めてしまうからです。仮に送る側がメールに資料の添付を忘れてしまった場合、こう受け取られてしまう可能性はさらに高まります。
誤解を生まないよう、暗黙の了解や常識に甘えず、読めばわかることもあえて丁寧に伝えましょう。
改善案2では、あえて「添付ファイルをご覧ください」と付け加えました。こうすると、相手には「資料がこのメールに添付されているんだな」と伝わります。万が一添付漏れがあったとしても、相手から「添付されていませんよ」と催促がきます。「あれ、見積書が添付されていないぞ。もしかして郵送されてくるのかも。少し待つか」と誤解されるおそれがなくなり、結果的に時間のロスがなくなります。
┗【足す③】具体的にイメージしてもらうために「数字」を足す
より具体的に伝えるためには、積極的に「数字を足す」とよいでしょう。言葉で表現するだけでは、読む人によってイメージするものが変わってしまうからです。
たとえば、「線を引いた上に円を描いてください」と文章で書いてあっても、人によって想起する図は異なります。「5cmの横線を引き、線から上に3cm離れたところに、半径2cmの円を描いてください」と数字を挙げて説明すれば、誰が読んでも客観的に同じ図形を再現できるでしょう。数字を足すことで文章の客観性が増し、説得力のある文章になるのです。
ここでは、グルメスポット記事でおいしいラーメン屋を紹介する場合を例に挙げてみましょう。
【例文3】
平日でも開店前から地元客が行列をなし、換気扇からただようスープの香りに期待が高まります。一番人気の「○○ラーメン」は、にぼし出汁と鶏ガラがベース。透き通った黄金のスープは、飲み干せるほど美味。××駅の路地裏にひっそりとたたずむ隠れ家的名店です。
店名:○○屋
最寄り駅:××駅
開店時間:11時から14時(なくなり次第終了)
(159文字)
【改善案3】
平日でも開店前から地元客が10人以上も行列をなし、換気扇からただようスープの香りに期待が高まります。一番人気の「○○ラーメン」(780円)は、にぼし出汁と鶏ガラがベース。透き通った黄金のスープは、飲み干せるほど美味。××駅徒歩5分の路地裏にひっそりとたたずむ隠れ家的名店です。店内にはカウンターが9席。回転率はいいですが、長時間並びたくない人は、11時の開店前に行くことをおすすめします。
店名:○○屋
最寄り駅:××駅
開店時間:11時から14時(なくなり次第終了)
(251文字)
例文3では、そのラーメンがおいしいことは伝わります。店名や最寄り駅、開店時間といった基本情報も添えられています。これだけでも十分グルメスポット紹介としては役割を果たせていますが、もう一歩踏み込んだ情報が欲しいところ。
このお店に興味をもった読み手は、こんな風に考えるはずです。
「どれくらい並ぶのかな?」
「だいだいいくらで食べられるのかな?」
「駅からどれくらいの距離にあるのかな?」
「店内には何席あるのかな?」
「何時ごろ行くのがいいのかな?」
そこで、改善案3では、店を訪れやすくするために具体的な情報を足しました。読み手が気にするであろうポイントに先回りするのは、足すテクニック②と同様です。そこに数字を添えることで、記事の客観性が補強されます。読み手がお店の状況を具体的にイメージしやすくなりました。
「どれくらい並ぶのかな? ああ、多いときだと10人以上も並ぶのか」
「だいだいいくらで食べられるのかな? へえ、一番人気のラーメンが780円なんだ」
「駅からどれくらいの距離にあるのかな? ふむふむ、駅徒歩5分ならあまり遠くないな」
「店内には何席あるのかな? そっか、カウンターの9席だけなんだ」
「何時ごろ行くのがいいのかな? なるほど、11時前に行くのがいいんだな」
具体的にイメージできると、行動するまでのハードルが下がります。疑問点が減り、行動した後に自分が得るメリットがイメージしやすくなるからです。そこに至るまでの読み手の手間を省き、悩まないようにしてあげるために、具体的な情報を「足す」のは有効です。
┗【足す④】説得力を底上げするために「理由」と「実例」を足す
足すテクニック④を使いこなすにあたって、覚えておいていただきたいのが5W1Hです。
5W1Hとは、英語の疑問詞の頭文字で表した、情報伝達をスムーズにするための要素です。「今の文章に、何を足せばいいんだろう?」と迷ったときには、5W1Hを参考に情報を足してみてください。
・What―何をおすすめしたいか(固有名詞)
・Who―誰におすすめか(ターゲット)
・Where―それはどこにあるか(場所)
・When―それはいつか(時間・時期)
・Why―なぜおすすめしたいか(理由)
・How much―いくらか(価格)
5W1Hのなかで、一番重要なのはWhy(理由)です。文章を通して相手を説得したいのなら、「私はこう思う!」「こうすべき!」と、自分の主張を声高に叫ぶだけでは届きません。読み手を動かすには、主張に理由を添えるべきです。
ただし、自分がどう思うかという主観的な理由だけでは説得力が足りません。たとえば、「商品Aより、商品Bのほうが優れている。なぜなら、私がそう感じるから!」のような主張は、「いやいや、優れていると感じるのはあなたであって、私が同じように思うとは限らないよね」と疑問が浮かんでしまうはず。経験や実例などを添えて、客観的にも納得しやすい理由を書きましょう。
前提として、読み手は簡単には行動しないと覚悟しましょう。読み手は「本当にそうなの?」と常に疑っています。心の底から納得しないと行動にはつながりません。
次の例文は、「一文をできるだけ短く」と主張する文章です。説得力を高めるために、約300文字ものボリュームを足しています。第2章の「引く」や第3章の「かける」にもつながる内容なので、単なる例文としてではなく主張も含めてご覧ください。
【例文4】
読み手に伝わりやすい文章にするためには、一文をできるだけ短く書きましょう。その方が読みやすく、理解しやすいからです。(58文字)
【改善案4】
読み手に伝わりやすい文章にするためには、一文をできるだけ短く書きましょう。
あなたが読み手だとしたら、長くて読みにくい文章よりもシンプルで力強い一文の方が読みやすく、理解しやすいですよね。
たとえば、「創業から35年、たゆまぬ努力を続けてきたことにより、弊社は低いコストでサービスを提供できるだけでなく、サービスの品質においても競合他社より高い水準です」という文章。こんな風にダラダラと長い文章だと、読み手の集中力が途切れてしまいます。また、文の構造が複雑になる、ねじれが起こりやすいなどのデメリットもあります。
一文をできるだけ短く書くとこうなります。「弊社のサービスは、低コスト・高品質が特長です。そのために創業から35年、たゆまぬ努力を続けてきました」。読みやすく、特長がわかりやすくなりました。
一文は短く、が鉄則です。(360文字)
例文4の惜しいところは、「一文をできるだけ短く」という主張に対して、理由が貧相な点です。なぜ一文は短く書くべきなのか、その根拠をもっと充実させなければいけません。改善案4では、理由と実例を足しました。この文章が主張する「一文をできるだけ短く」を支える理由を、例文を交えながら丁寧に添えています。ポイントは次の2つです。
1. 読み手のなかにある経験を掘り起こしている
2. 具体的な実例を見せている
実はこの改善案4は、PREP(プレップ)法にもとづいています。PREP法は文章構成の技法のひとつで、ビジネス文書やプレゼンテーションなどに用いられます。P(Point・要点)、R(Reason・理由)、E(Example・事例または詳細)、P(Point・要点)の頭文字をとって、PREPと呼ばれています。PREP法は起承転結よりも構成しやすく、説得力のある文章が書けるのでおすすめです。
【PREP法とは】
・Point(要点)
最初の「P」は要点、言い換えれば主張や結論のことです。この文章で何を伝えたいのかを最初に提示します。なるべく端的でシンプルな文章にすると、読み手に伝わりやすくなります。
改善案4でいえば、「読み手に伝わりやすい文章にするためには、一文をできるだけ短く書きましょう」の部分です。
・Reason(理由)
次の「R」は理由です。なぜその要点を伝えたいのか、その結論に至ったのはなぜか、なぜあなたがそれを主張したいのか。さまざまな角度から「なぜ?」を考え、読み手を説得できるよう丁寧に言語化してください。
改善案4では、「あなたが読み手だとしたら……」から切り出して、読み手の経験を掘り起こしています。読み手が受けるメリット(読みやすい、理解しやすい)を理由として提示することで、納得しやすくなります。
・Example(事例または詳細)
3つ目の「E」は事例または詳細です。Rで提示した理由を裏付けるために、具体的な事例や詳細を添えます。
改善案4では、サービスについて紹介する文章の悪いパターンと良いパターンを比較しています。そのほか、自分自身のリアルな体験談や、統計やデータなどの数字を提示するのもおすすめです。
・Point(要点)
最後にもう一度、「P」の要点をもってきて、文章を締めくくります。最初のPよりもさらに短く端的に、読み手に刺さるような、余韻のある文章にするとよいでしょう。
改善案4では「一文は短く、が鉄則です」と、印象に残るようにしています。
┗【足す⑤】行動のハードルを下げるために悩みに寄り添った「情報」を足す
最後の「足す」テクニックは、ブロガーやライターの方は特に実践してほしい文章術です。商品やスポットのおすすめ記事を書く場合や、クライアントからの依頼に基づく記事を書く場合に役立ちます。これらの記事に共通するのは、文章を通して(クライアントが望む方向に)ユーザーを行動させなければならない点。書き手が本当にアプローチすべきは、その文章を読むユーザーなのです。
こういったライティングには、必ず目的があります。
・商品紹介記事⇒【目的】商品を購入してもらう
・グルメスポット紹介記事⇒【目的】実際にそこを訪れてもらい、食べてもらう
・ダイレクトメール⇒【目的】リピート購入やほかの商材に興味を持ってもらう
クライアントがいれば、マニュアルが用意されている場合もありますが、その範囲内でできる工夫をご紹介します。それは、「行動のハードルを下げるために情報を足す」というテクニックです。
人は、行動しようとするときに疑問点が多いと不安になります。特に、何かを購入しようと考えているときは、出費に見合ったメリットを得られるかどうかを気にするはず。
誰だって納得いくまで考えてから、購入したいですよね。疑問点が少しでも減り、納得できる状態になると、行動のハードルが下がります。セールスライティングにおいては、読み手の疑問を解消してあげるよう意識しましょう。
たとえば、読み手に「掃除機を買ってもらう」ための記事を書くとします。
【例文5】
コードレス掃除機とは、電源コードがなく、バッテリーで動くタイプの掃除機です。充電式のバッテリーには、リチウムイオン電池とニッケル水素電池の2種類があります。
吸引力でいえばキャニスター型のほうがパワフルですが、最近ではスティックタイプにも、キャニスター型に劣らない吸引力を誇る機種が増えてきました。
コードレス掃除機の人気ランキング第1位のこちらの商品は、吸込仕事率110Wととてもパワフルです。(196文字)
【改善案5】
コードレス掃除機とは、電源コードがなく、バッテリーで動くタイプの掃除機です。充電式のバッテリーには、リチウムイオン電池とニッケル水素電池の2種類があります。一般的に、リチウムイオン電池は高価なのがデメリットですが、劣化しにくくパワフルというメリットがあります。最新機種の多くはリチウムイオン電池を採用しています。
コードレス掃除機はスティックタイプが一般的ですが、吸引力でいえば、コンセントから電源を取る従来のキャニスター型のほうがパワフルです。しかし、最近ではスティックタイプにもキャニスター型に劣らない吸引力を誇る機種が増えてきました。
コードレス掃除機の人気ランキング第1位のこちらの商品は、吸引仕事率(※1)110Wととてもパワフルです。
※1 吸込仕事率とは
運転時の風量と真空度から計算される数字で、単位はW(ワット)。掃除機の吸引力を比較する際の目安となる。コードレス掃除機の吸込仕事率は、平均60~100W。(407文字)
例文5は、コードレス掃除機をおすすめする記事です。読者、つまりこの文章の読み手に「この掃除機を買おう」と思わせ、実際に購買行動に導くのがこの記事の目的です。一見すると掃除機を買うために必要な情報を網羅しているように見えますが、専門用語が多いわりに、読者が気になる肝心の情報が足りていません。
実際に何か品物を買うときは、スペックを調べて、類似商品と比較し、メリット・デメリットを考え、価格を調べ……と、いくつものハードルがあります。もちろんそういった購入までの過程を楽しめるタイプの人もいますが、「いい掃除機が買えればいい」「でも、あれこれ考えるのは面倒くさい」タイプの人も必ずいます。むしろ後者のような層にどれだけ購読意欲を沸きたたせ、買ってもらうかが腕の見せどころ。
行動のハードルを低くするためには、読み手の悩むポイントを先回りして「情報を足す」のがおすすめです。例文5でいえば、読み手はこんな悩みを思い浮かべるかもしれません。
「バッテリーはリチウムとニッケルのどちらがいいの?」
「キャニスター型……ってどんな掃除機?」
「吸引仕事率って何? 110Wってあるけど、これって良いの悪いの?」
改善案5では、読者の悩みを先回りして情報を足し、この記事単体で解決しました。
バッテリーの種類について、リチウム電池をおすすめする立場から情報を足しました。劣化しにくい、パワフルであるというメリットだけでなく、高価であるというデメリットも正直に足しています。
また、読み手を悩ませるかもしれない専門用語の、キャニスター型掃除機と吸込仕事率についても補足しました。改善案5のように文章中に差し込んだり、※で注記したりと工夫してもよいでしょう。
どのレベルの情報をどこまで足すべきかは、読み手となるターゲットの知識レベルにもよります。詳しく書こうとして無限に足せばいいわけではありません。第2章でご紹介する「引く」のテクニックとあわせて、試行錯誤しつつ使いこなしていただければ幸いです。
┗コラム①:どうしても文章が書けないときはどうすればいいのか?
本書がご紹介するのは、文章を書くときや書いた文章を見直すときに役立つテクニックです。しかし、それよりもっと前の段階で、そもそも「書けない」という悩みに直面することもありますよね。そんなときは、文章が「書けない」のはなぜか、理由を分解すると対策が見えてきます。
文章が書けない理由は人によって・状況によってさまざまです。ここでは、私自身も経験がある三大理由を挙げてみましょう。
【文章が書けない三大理由】
1. そもそも書くことがない
2. 気分が乗らない
3. 書いているうちに迷ってくる
1. そもそも書くことがない
仕事で文章を書くときは、テーマが指定されていたり取材テープがあったりと、素材やヒントがあるケースがほとんどです。しかし、それでも「書くことがない」と感じるのは、インプット不足が原因かも。リサーチをやり直す、取材テープを聞き直す、関連するテーマや相反するテーマにも目を向けてみる……などを試してみてください。
あるいは、仕事とは関係のない小説や広告などから言葉をインプットするのもいいですね。文章だけでなく、映画や旅行などの体験も刺激になるのでおすすめです。
2. 気分が乗らない
趣味で書いているなら、気分によって書けない日があってもいいかもしれません。でも、書くことを仕事にしているのならば、その気まぐれは死活問題。セルフマネジメントとして、書き始めるまでのルーティーンを用意しておきましょう。
私の場合、「何か1文字でもいいからとにかく書く」のがルーティーン。その日のタスクをメモ帳に書き出したり、SNSで「今日はこれをやる」と宣言したり、誰に出すわけでもなくメールの下書きに「いつもお世話になっております」と書いてみたり。1文字書くと2文字目も自然に出てきます。指が温まり、脳が温まると気分が乗ってきます。
3. 書いているうちに迷ってくる
ほかにも、「とりあえず書いてはみたけど、なんだかしっくりこない」といった悩みもあるかもしれません。書き出したはいいが書いているうちに迷ってしまい、筆が止まるパターンです。そんなときは、途中から書いたり、最後の一文から書いたりするのもおすすめ。書けるところから書けばいいのです。
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