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予想の斜め上だった『アイヌ民譚集』


本屋で目に留まり、面白そうだからとあまり深く考えずに購入した本。正直に申し上げるとサングラスをかけた小粋なアシㇼパさんとその愉快な仲間たちのおかげで大体の内容の予想はついていたのですが、あえて目次などを確認することなく勢いで手に入れてしまいました。

知里真志保編訳『アイヌ民譚集』岩波文庫

…という言い訳はさておき、さっそく本題に入ります。

『アイヌ民譚集』の話

いきなり色々と不穏な目次


パナンペ説話はいわゆる「隣の爺型民話」と呼ばれる日本昔話にそっくりな形式を持つアイヌの昔話の一つで、アシㇼパさんの言葉をそのまま借りると「いつもパナンペがなにかで大儲けして羨ましがったペナンぺが真似をするが、コイツがクズだから失敗する話がほとんど」だそう。まさにその通りです。そして目次からもお察しのように中々奇抜な話が多かったのでびっくり。


まず一つは…ペナンぺの行儀が予想以上に悪い!!
金カムの「パナンペペナンペ物語」では杉元が得をして白石が”つまらない死に方”をするというのがお決まりのパターンで、実際この本のⅣとⅤの内容とほぼ一致するのですが、一か所両方とも省略されているのが「ペナンぺが腹いせにパナンペの家の戸口に小糞たれ小尿たれ」という衝撃のワンシーン。

まあそもそも話の内容的にこの描写だけ取り立ててどうこう言う必要もないというのがまた怖いところですが、必ずと言っていいほどペナンぺは去り際にパナンペ宅へ小便を引っ掛けていくのです。ちなみにパナンペの方はというと悪態をつきながらも渋々毎回その後片付けをしています。可哀そうに。


物語のスタイル的にどう足掻いてもペナンぺが失敗するのは目に見えているので、”どんなふうに”失敗するのか予想しながら読むのがオススメです。パナンペペナンペを取り巻く周辺の人物(人とは限らないが)も個性豊かなので、案外予想だにしなかったところにその失敗の種があったりして面白い。

衝撃の事実(完全私得)

地里真志保氏の後記を挟み、後半は『えぞおばけ列伝』と題された小話集。表紙にもありますがとても人間臭いおばけが沢山登場します。中にはかの有名な”ラッコ鍋”の物語も…

そして個人的にどうしても言及せずにはいられないのが「16.竜蛇の話」です。「目玉の話」と語呂が似てるな~などとしょうもないことをぼんやり考えながら読んでいたらとんでもない事実に出くわしました。それがこれ。

!?

まんまやん!!!

これにはシモーヌもびっくり!!
目玉の話で散々若者たちを悩ませてきたこの物語の主題がこんな遠く離れた蝦夷の地で古くから民話として語り継がれていたとは…偶然の出来事であるのは百も承知ですがさすがに興奮せずにはいられない思わぬ発見でした。本当にびっくり。


最後に

全体を通して予想の斜め上を行く内容でした。民話や寓話のような分かりやすくまとまった話が好きで今回もその一つとして買ってみたのですが、突っ込みどころが多すぎてどこから突っ込めばいいのか分からないような話ばかりで、これはこれでとても面白かったです。

また左開きの岩波文庫というのも中々レアでいいですね。

そして何より前半のパナンペ説話は左ページが全てアイヌ口承のローマ字起こしになっているので仕方なく読み飛ばしていると気付いたらぐんぐん読み進んでいるという嬉しいオマケ付きなのですよ…(悪魔の囁き)


以上です。読んでくださった方ありがとうございます。

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