ベルセルク考察 グリフィスはなぜシャルロットを襲ったのか。なぜガッツを許せなかったのか
私が初めてベルセルクを読んだ時、ガッツがいなくなった晩にグリフィスがシャルロットを襲った理由が分からなかった。物語の非常に重要な点にもかかわらず、蝕の前後は登場人物の心理描写が丁寧になされているわけではなく、初めて読んだ時は、私も深く落ち込んだグリフィスの気の迷いのようなものだろうと考えてなんとなく読み進めていた。
しかし、3年ぶりに再読すると、さすがベルセルクである。非常に丁寧に、グリフィスがシャルロットを襲うことになる伏線が描写されており、やはりグリフィスがシャルロットを襲うことになったのは必然だったと気付かされた。
グリフィスは夢の重荷に耐えられなくなったため、シャルロットを襲った。
ガッツがグリフィスの元を離れる前、グリフィスはすでに自らの夢の重荷に耐えられない状態にいた。
騎士の人形を持った鷹の団の子供の死、自分の夢のために死んでいった仲間たち、グリフィスが夢を追う過程で自らの夢が他人の夢を食らうことに対して罪悪感を感じており、それは醜い貴族との逢瀬によって自らに罰を与えていることにも表れている。グリフィスが夢の重荷に潰されそうになっている時、自らの爪で、身体を傷つける(抉る)描写がなされる。
こうしたグリフィスが抱える夢の重荷は、同じく父殺しという罪を負って、剣を鍛え上げという生きる意味を追う、唯一の友であるガッツの存在によって、耐える・忘れることができた。
ガッツはグリフィスの友として、グリフィスに夢の過程や罪悪感を共有することができた。
グリフィスは、他の仲間に対しては「上がっていく感覚だけ味わえれば良い」と突き放すのに対し、ガッツには「お前にはとことん付き合ってもらうぞ」と伝えて、夢の重荷の一部をガッツにも背負わせていることからも、グリフィスが夢の重荷に耐える上で、ガッツがどれほど重要な存在であるか分かる。
また、グリフィスにとって、ガッツは夢の重荷を共有できる存在だけではなく、友と夢を追う過程自体を楽しませ、夢を忘れさせてくれる存在になっていた。
なお、グリフィスにとって友とは、人の夢に縋らず、自らの夢や生きる理由を自らで切り開く存在をさす。ガッツ自身は剣を鍛え上げることを夢=生きる意味とは認識しておらず、それが、グリフィスのもとを去る原因となった。一方、グリフィスはガッツがグリフィスのためではなく、ガッツ自身のために剣を鍛え上げていると認識しており、のちのガッツの武者修行期間や、キャスカとの初体験時のトラウマのフラッシュバックによって、グリフィスの感覚が正しいということが証明されている。この認識の違いも、この物語の悲劇の核心になっている。
(ガッツの単純な勘違いではなく、ユリウス伯爵の息子であるアドニスを殺してしまったという事実や、ガッツが抑え込んでいたトラウマが、必然的にグリフィスとガッツの認識にズレを生じさせていると考えられる)
グリフィスの国を手にいれるという夢の達成とは、シャルロット娶ることと同義であるといっても過言ではない。キャスカもこの点に触れている。しかしながら、シャルロットの父であるミッドランド国王はシャルロットへの偏愛ゆえ、無数の政略結婚の途を断り、なかなかシャルロットを娶らせなかった。グリフィスは、夢の達成のために非常に困難な壁が立ちはだかっていることに気づく。
ガッツがグリフィスの元を去ったことによって、グリフィスは夢を追うことの重荷に耐えることができなくなった。その結果、今まで丁寧に積み上げてきた夢の布石を放棄し、シャルロットを娶るために必要な困難な途を全て無視して、シャルロットを襲うことによって夢の達成を図ることになる。この方法で、シャルロットを娶ることができるわけではないのだが、事実だけを切り取れば、夢の達成ともとれるだろう。もうすでに夢の重荷にグリフィスは耐えられないのだから、夢を放棄しても構わないと考えており、それが、シャルロットを襲うことの唐突さ、計略の甘さ、事後の対応の手抜かりに現れている。
なお、グリフィスはシャルロットを襲った後、夢の重荷に耐えきれず、自傷行為をしている。
ガッツがいなくなったことは、グリフィスにとって、夢への殉教の旅の継続が不可能になることを意味し、ガッツと夢を追う喜びという夢の達成以上に重要なものの喪失である。
夢の放棄と達成、その一方または両方を達成する手段が、シャルロットを襲うことなのである。
シャルロットの姦淫によってグリフィスの夢は終わった。しかしながら、のちに続く拷問によって、グリフィスは徹底的に自らを攻撃するよう仕向け、夢を放棄する。
グリフィスは夢を徹底的に放棄した。
その中でも、ガッツはグリフィスの意識を繋ぎ止める楔となる。
グリフィスにとっての幸せは残されている。グリフィスは夢が一番最初に男が出会う生きる意味ではあるけれども、それが全てとまでは言いきっていなかった。キャスカとささやかに生きること、そのささやかな幸せがグリフィスには残っていたのだが、ガッツがキャスカと通じていることにグリフィスは気づく。また、グリフィスは自殺もできない状態に陥る。
夢、幸せを奪い、そしてそのまま生きることを強制するガッツを、グリフィスは許すことができなかったのである
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