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#12 飲み会で話し合ったこと
元同僚の方々との飲み会
先日、元同僚のSさん、T先生、そして今の同僚であるI先生、T先生もう一人の先生と一緒に居酒屋で飲む機会がありました。私たちは皆、ミドルリーダー層にあたる世代です。教育に対する視点もそれぞれ異なります。特に、Sさんはすでに退職し、別の仕事をしながらも教育に対する強い思いを持ち続けているため、新しい視点を投げかけてくれる貴重な存在です。
児童会役員選挙のあり方
話題の中心は、児童会役員選挙の仕組みについてでした。
本校では、
①立候補者が公報用の文書を作成する。
②各クラスを回って演説を行う。
③体育館で全体演説をした後、投票する
という流れです。私自身、どの学校もこの形が一般的だと思っていたので、この流れについて変えようと考えたことはありませんでした。
ですが、Sさんの選挙に対する意見は違いました。
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Sさんの選挙への思い
Sさんは、「小学校の選挙の仕組みは今の日本の選挙制度と同じだ。これからの時代を担う子どもたちに、より良い未来をつくる力を身につけさせるには、学校の選挙の仕組み自体や先生のスタンスを変える必要があるのではないか」と。ICTを活用して投票する仕組みに変更することで、次世代の選挙の仕組みに変えていくことに加えて、先生のスタンスとしてこのように話していました。
それは、「もし子どもたちが『裸祭りをやろう』と提案したらどうする?」という話でした。そこで教師が「それは無理だ」と判断するのではなく、「面白いね。でも、これを実施したらどんな問題が起こると思う?」と問いかける。子どもたちが持ってきたアイデアを教師が実現可能かどうかで判断するのではなく、子どもたち自身がその過程を考えることが大切だといいます。最終的に子どもたちが議論し、正しい判断を下せる力を養うことこそが、教育の役割ではないかという話には、私も強く共感しました。
T先生の選挙の形を変える試み
T先生は、児童会役員選挙の演説方法を変えたそうです。従来のように全員の前で演説するのではなく、小規模校であることを活かし、体育館にいくつかのブースを設置。立候補者、選挙管理委員でグループになり、そこで話し合いを行う形式にし、その話し合いの様子を投票者が見て、投票するという仕組みです。
その話し合いでは、立候補者が公約を発表するだけでなく、投票者からの質問に答える場を設けることで、より双方向の選挙の仕組みにしていきたいということでした。T先生もICTを活用した投票には賛成していました。
共感するI先生の選挙に対する思い
一方で、I先生はICTを活用した投票には反対の立場でした。理由は、現在の日本の選挙制度が紙の投票を基本としているからです。I先生は、前任校で実際の投票箱や投票用紙を使い、できるだけ本物の選挙に近い形で児童会役員選挙を実施した経験がありました。実現はしなかったそうですが、子どもたちがよく考えてから判断できるように、演説を聞いた翌日に投票する仕組みも考えていたそうです。
私もI先生の考えには共感する部分がありました。現実の選挙制度に合わせることで、社会に出たときに戸惑うことなく意思表示ができるようになるのではないかと考えていました。しかし、SさんやT先生の話を聞きながら、自分の考えを振り返るきっかけになりました。
自分のスタンスを振り返る
話の流れで「きむ先生(私)はどう考えるの?」と聞かれました。私は、「今の選挙制度を真似ることが良い」と考えています。その理由は、現実の社会の仕組みを学ぶことが大切だからです。
それと同時に、投票後に「こんなはずじゃなかった」と子どもが困らないようにするために、子どもたちが立候補するときに、現実的に実現可能かどうかをチェックすることも重要だと思っていました。
しかし、この話し合いを通じて、私の行動は本当に子どもたちのためになっていたのか?と考えさせられました。もしかすると、教師が決めることを前提にした「教師のための活動」になっていたのではないかとも感じました。教育をより良くしていくためには、現場の視点だけでなく、外からの視点も取り入れることが重要だと改めて思いました。
自分の中にある「リスク」への意識
さらに気づいたことがあります。それは、私自身が「理想の選挙」を具体的にイメージできていないことです。私はどうしてもリスクを考えてしまい、「今の仕組みの中で最も効率が良い方法」を判断基準にしているのではないかと思いました。
文部科学省や国が選挙の在り方を明確に示していない中で、新しい選挙の形を試すことは、もし失敗したときに教師の負担が増えるリスクがあります。そのため、私は「そこそこに考える」というスタンスを取っていたのかもしれません。しかし、この話し合いを通して、リスクを取れる範囲でなら新しいことに挑戦できるのではないかと考えるようになりました。
例えば、私はICTを活用した授業には積極的に取り組んでいます。Googleチャットを使った道徳の授業や、タブレットを活用した協同的な学びの実践には抵抗がありません。それは、私自身が「リスクを取ってもよい」と判断できる分野だからです。一方で、選挙の仕組みを変えることには慎重になってしまう。それは、学校全体に影響を及ぼすからでしょう。
教育現場には多くの先生がいて、それぞれの考えがあります。公教育をより良くするために、自分ができることは何かを考え、授業だけでなく、学校全体の仕組みについても視野を広げていくことが、これからの私の課題なのだと感じました。