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「職場体験」の事前学習とは。高校生の従業員インタビューの質問作り【ジョブトライアル試験導入ルポ】

8月、中村高等学校(東京都江東区)の1年生が、都内の企業に職場訪問をしています。毎年恒例の取り組みに、今年度は教育と探求社の新しい職場体験プログラム「ジョブトライアル」を試験的に組み込みました。

「職場訪問を、楽しい『夏の単発イベント』で終わらせたくなかったんです」と話すのは、同校のキャリア教育担当、藤井翔先生。

「ジョブトライアル」では「本番」が充実したものになるよう、従業員へのインタビュー(質問)も予定しています。事前学習の集大成として、質問づくりに取り組んだ生徒たち。藤井先生のお話も交えながら、その様子をお伝えします。

職場訪問前の「事前学習」とは

同校では今、「先進」「探究」「国際」の3コースの1年生49人が、「ジョブトライアル」のプログラムに沿って企業訪問に取り組んでいます。受け入れ先は計9社。「現場でリアルに直接質問ができる環境を」と、藤井先生が学校の職場訪問を受け入れている企業に片っ端から電話したそうです。

藤井翔先生(奥)と、質問づくりに取り組む生徒たち

生徒は受け入れ先の企業の中から関心のあるところを選び、同じ企業を選んだ生徒同志で班を作り、すすめていきます。

「ジョブトライアル」は全部で10ステップ、「事前学習」「職場体験」「事後学習」の3つに分かれています。事前学習は「仕事への意識」づくりや「企業の魅力」探しが柱で、生徒は企業のホームページや関連ニュースなどをもとに、企業の事業や理念の内容、またそれに対する自分の考えを、ワークシートにまとめながら言葉にしていきます。

生徒がまとめた、訪問先の企業に関するワークシート

藤井:訪問先の企業を調べる際に「宿題」も出しました。その企業の製品やサービスを使ったことのある家族や友人に、その内容や感想を尋ねるというものです。そこから、企業の商品やサービスが、実は身の回りにたくさん存在していることに気づくんですね。そこから親にも聞いてみたいと自分から言い出す生徒も出てきました。こうした関心の立ち上がり方は、これまでの職場訪問ではなかったと思います。

「好き」から生まれる質問

事前学習の集大成が、企業の従業員向け質問づくり。調べた内容を班のメンバーに共有し、そこからお互いのアイディアをさらに深めるディスカッションを経て、そこから新たな質問も生まれていきました。

どんなやりとりだったのでしょうか。いくつかの班の様子をまとめました。

■ボルテージ 班
12人の生徒が2班に分かれて質問を作りました。ボルテージの事業の一つが女性向け恋愛ゲームの製作で、登場人物に「イケメン」が多いのが特徴。それもあってか、1人が「社員の人ってイケメン好きなのかな」と口にすると、「制作者は絶対イケメン好きだよ!」と同意の声が相次ぎました。
女性向けのゲームに、男性がどう関わっているのかも知りたい様子です。「自分の会社のゲームアプリを実際にユーザーとして楽しんでますか」という質問も盛り込んで、社員自身が自社のアプリをどのように捉えているかを聞くインタビューを作成しました。「社内恋愛はあるんですか」「社内のメンバーの男女比はどのくらいですか」といった社内環境に関する質問もありました。

■サイバーエージェント 班
3人のメンバーが机をくっつけて、お互いのiPadの画面を覗き込んでいました。見ているのはネット検索で見つけた、同社のゲームアプリ。最初は「好き」から入り、ゲームの内容や他のゲームを見たり調べたりするうち、「これって、どうやって作ってるんだろうね」という疑問が出てきました。そこで、アプリ制作の経緯や狙いを尋ねる質問も盛り込みました。

「競合他社の製品を使ってますか」

企業のホームページなどに載っていないような質問や、イエス・ノーで終わらない質問にするには…。質問づくりの間、藤井先生は班を回って必要に応じてそんな助言をしていきます。

ーーインタビューの質問づくりをご覧になって、先生がオッ!と思った質問は?

藤井:競合他社について尋ねている質問ですね。そういうことって本当はすごく知りたいところではあるけれど、聞き方によっては失礼になるかもしれない。ならばどう質問すればいいか、生徒たちはそのあたりに頭を悩ませていました。

■日本ヒューレット・パッカード班
10人が集まり、2〜3名の小さな班に分かれる。企業のサービスを調べる中で、競合他社の存在にたどり着いた生徒からIBM、NTTデータなど「競合他社との違いはなんですか」という質問や「テレワークになったことによる仕事への影響」をインタビュー項目としてまとめていました。

■ヤフー班
5人のメンバーでディスカッション。そばにいた藤井先生が「検索するときにどのプラットフォームを使ってる?」と投げかけると、最初、聞かれた質問の意図が分からなかったようで、「なんのこと?」とぽかんとしていました。よく調べたら自分が普段授業で使っているiPadは「Google」でした。
メンバーの1人は、yahoo!とGoogleの違いに着目して、事前にインターネットで調べていました。ユーザーの傾向を調べると、yahoo!は、年齢が高めの人や主婦が使い、Googleは若い人が使っているようです。そこを深掘りしたいと、「Googleとの違いはなんですか」という質問を盛り込んでいました。

藤井:正直、今までの「企業訪問」は「夏の単発イベント」という感じがあって、受け入れ先の企業も十分調べないまま訪問して「楽しかった」で終わってしまっていた面もありました。それだとせっかくの機会が生かしきれず、もったいない。

事前に企業の事業や理念を深く調べたり、さらに知るために質問を考えたりする時間をとることで、当日もさらに充実しますよね。最初は企業訪問に少し後ろ向きでも、事前学習で企業への理解を深めたり、そこから浮かんだ疑問をもとに質問を作るうちに、この機会を大事にしようという目的意識を持つような生徒もいた、と思っています。

「なりたい自分」起点の進路選び

「大学時代に学んだことはどう生かしていますか」という質問も目立ちました。理由を聞くと「なんとなく気になるから」。進学を意識しているのでしょうか。そのあたり、藤井先生に尋ねてみました。

ーー普通の子どもにとって「企業」という存在や「働く」という行為は、まだまだ遠いもののように思います。職場に行くことで別の作用みたいなものがあるとするなら、それは何でしょうか。

藤井:本校では企業訪問をキャリア教育のなかに位置付けているので、生徒の進路決定に良い影響があればいいと思っています。昨年サーバーエージェントや博報堂をオンライン訪問した生徒のなかに、メディア業界への興味を持った生徒がいましたし。

1年生はこのあと、文系理系のどちらかを選択し、進路の決定へと向かっていきます。そのなかで、どんな業界でどういう働き方をしたいのか、そういう観点からさかのぼったうえで、では大学では何を学ぶのか、どういう学び方をするか、を考えていく。その際に、企業を訪問した経験を、生かせるようにしたいです。

ーー自分の偏差値をもとに「行ける大学」を探すという進路選択がまだ少なくないなか、逆の順序、つまり将来こういう仕事をしたいというイメージを先に持って、そのためにこの大学のこの学部で学びたいという「なりたい職業・なりたい自分」起点の進路選択のヒントにもなりえる、と。

藤井:そうですね。会社を直接見ることで、「こういう環境のオフィスで働きたい」「商品を宣伝する仕事をしたい」と、より具体的な働き方をイメージできるようになるようです。

進路面談で大学と学部の紹介だけをこちらがいくらしても、生徒には響きません。「そこに行ったとして、自分がどうなるのか」がピンとこないからです。そのため、「この大学だとこういう就職先がある」とか「業種は違ったとしてもあなたが望む働き方は、この大学に行くとできるかもしれないね」みたいな感じで問いかけると、生徒の選択肢が広がっているように思います。

インタビューの質問づくりまで進んだ生徒たち。次はいよいよ企業訪問です。その様子を次回ご紹介していきます。

<ジョブトライアルとは>
これまでの職場体験は、受け入れ先の職場の補助的な業務に生徒が取り組み、そこでの体験を振り返る流れが一般的で、ただの「お手伝い」で終わってしまう例も少なくありません。本来目指す、職業観やキャリア観の醸成につながる機能が十分果たせていないという指摘もあります。そこで、時代に即した新しいプログラムとして開発したのが「ジョブトライアル」。教育と探求社の探究学習のノウハウが盛り込まれた教材です。キャリアチェンジが常識となる「人生100年時代」の価値観を踏まえた「キャリアプランニング能力」の向上を図ります。
お問い合わせ先: 教育と探求社「ジョブトライアル」担当 (info@eduq.jp)


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