「やらないで分かること、あまりない気がする」。マジシャンに聞いてみた。
教育と探求社が実施している、高校生の社会実装支援プロジェクト「MIRAIB.」(ミライブ)。全国の高校生たちが、それぞれの「やりたい」をカタチにしていく活動で、アイデア実現の第一歩は「ちいさくつくってためす」こと。そのための背中を押してもらうトークイベント「”ちいさくつくってためした”ひとのはなし」が12月2日に実施されました。
第1回のゲストは佐久間 滉大さん(26)。
実業団の陸上選手として活躍したのち、子どもの頃から大好きだったマジックを仕事にした佐久間さん。マジシャンとして活動しながら、手品用品のECサイトを自身で立ち上げ商品開発・輸入・生産・販売・発送までを手がけています。さらに、2022年から学生時代のお友達と一緒に陸上教室もスタートした、「ちいさくつくってためす」の実践者です。
ー佐久間さんが自分で事業を興してみようと思ったきっかけは何ですか?
大学卒業後、陸上選手として実業団に2年ほど所属していました。でもコロナ禍のさなかに契約が終了。次の契約先の企業がなかなか見つかりません。その間のつなぎとして、学生の頃からやっていた手品用品の販売事業を始めたらそれがうまくいきはじめて、このまま続けていけるのではないかと思い始めました。
ーマジックショップの販売サイトの手品用品を見ると、4万円や7万円など、かなり強気な値段の商品もありますね。値段はどうやって決めているのですか?
最初はちょっと高めに値付けて売っています。マジック道具は、どれだけどれだけの需要があるか分からないので、売れなかったらどんどん値段を下げながら適正な価格を見つけています。売れた時は「あ、この値段で売れるんだ」と自分で驚く時もあります。
ー手品用品の売り始めたころは不安はなかったのでしょうか?
初めてマジックを売ったのは、大学3年の頃、陸上の合宿でアメリカに滞在していたころでした。陸上の練習は1日3〜4時間で終わるので、時間を持て余していたんです。その時に、メルカリで自分が持っていたマジック道具を売ってみよう、と思いつきました。
ちょうどトランプをいくつか持ってきていたので手元にあるもので色々作れそうだな、と、その場で出品しました。出すだけなら今すぐできるし、売れたら帰国後発送すればいい。まずやってみようと。
いくつか売れたので、次も、とどんどん売っていきました。もともと暇で始めているから売れたらラッキーだし、売れなかったらこれは売れないんだな、ってわかるだけなので。
ー海外からの手品用品も輸入しているそうですね。どうやって輸入を始めたのでしょうか?
最初に海外から仕入れたのは1年前です。ちょうどコロナに感染していて、またその時も暇だったし、思い付きで輸入を始めました。スマホを使って海外の人にDMをして手品用品を送ってもらうだけなのですぐにできるなと思いました。
ー海外の人に初対面でいきなり連絡したり、英語でやりとりするのは緊張しませんでしたか?
電話だったら言葉が出てこないこともありますが、メールならゆっくり調べながらやりとりができる。それほど難しくなかったです。
ー手品用品の制作を業者に依頼する際は、どのようにオーダーしているのでしょうか?
手品用品をオーダーしているのは、3箇所あります。国内の自動車部品の会社に金属加工をお願いしているのと、台湾とイタリアの会社でトランプを印刷してもらっています。
部品会社は、Twitterのプロフィールに「金属の加工承ります」と書かれているのを見つけて、ここなら頼めそうだと連絡してみました。いつもこういうことができる人いないかなと探しているので、すぐ行動できたんだと思います。
金属加工は結構オーダーが大変です。1mm単位で、この内側を削って欲しい、とか、この薄さにして欲しい、とか細かな調整が必要です。業者さんはマジックをやっているわけではないのでなかなか伝わらなくて、何回もやりとりしながら完成させています。
ー仕事をお願いする時に、佐久間さんが意識していることはありますか?
自分ができないこと、自分でやるハードルが高いことはできる人にお願いしたほうがいいと思っています。自分達ができることは、かなり限られているからです。「自分はこの人にお手伝いしてもらっている」「このウェブサイトのこの部分はこの人にお願いしている」と言えるのがいいと思っています。
ー仕事を他の人にお願いする際、失敗したらどうしようと考えることはありますか?
失敗したら嫌だけど、やらないままだと成功もしないと思います。成功したらどんどん次につながっていくし、もし本当にダメならやめればいい。まずは試しでも1回やってみる。失敗しても直せそうなら直せばいいし、まずは一回やってみようと思うことが多いです。
やってみるまで分からないことは、たくさんあります。逆に、やらないでわかることなんて、あんまりないような気がします。
商品を仕入れる時も、利益が出るのか分からないけど、もしうまくいけばもっと利益出せる。だからやってみよう、と。人に仕事をお願いするのは結構お金がかかりますが、自分の時間がその分生まれる。やる前に「こういうところはいいけれど、ここはダメかな」と仮説を立ててやってみて、そこでマイナスになりそうならやめよう、プラスになるならやってみても悪くないな、と試行錯誤しながらやっています。
ーどんなものにもプラス面とマイナス面があると思うのですが、佐久間さんはその線引きをどう決めていますか?
自分が大切にしているのは時間です。お金を稼ぐのも大切ですが、時間がすごく大切で、自分の時間が欲しいんです。なので利益はそんなに出ないけど、自分の時間が保たれるなら人にお願いしようと考えることが多いです。
ーここまでのお話を伺って、佐久間さんは順風満帆で負け知らずという印象を受けるのですが、挫折の経験はありますか?
陸上競技の選手として立幅跳をやっていた時は、うまくいかない時期も長かったです。大学1年で自己ベストが出たけれど、そのあとは1300日間自己ベストが出なかった。ようやく社会人1年目に2cm記録を更新できるまでの4年間は挫折の期間でしたね。結果が出た時は泣くほど嬉しいだろうと思ってましたが、もちろん嬉しいし、ガッツポーズもしたけれど、意外とこんなものかと思いました。そこまで感情が爆発した感じではなかったです。
ー「感情が爆発した」と思ったのはどんな時ですか?
高校生の時の大会で逆転優勝した時です。その日は調子が悪くて、全部で5回飛ぶうち4本目の段階で5位くらいでした。だけど、ラストの5本目で1位になった時は感情が爆発しました。ギリギリのところからいきなり勝ったので。
ー自分で事業をしている時は日々コツコツ積み重ねる練習の感覚と、ギリギリの逆境を切り抜けて感情が爆発する時の感覚とどっちが近いですか?
事業を始めた頃は、安定してちょっとずつ、という気持ちだったのですが、ここ半年くらいはギリギリを切りぬければ、もっと大きくなっていくなと感じています。お金はすぐ仕入れや制作に使って、マジックの事業は結構ギリギリで回しています。だけど、陸上と違って感情は爆発しません。
ー陸上教室はどのように展開されているのでしょうかか?
今年の夏、大学時代の友人と始めました。今は週1度、夢の島や豊洲で小学生6人に教えています。始めたばかりなので、集客を頑張っています。
知人のデザイナーが作った体験会のチラシを業者に委託してポスティングして、参加者を増やしているところです。ポスティングは1回で約10万円。初回の体験会の募集では1万枚配り、参加者が増えました。でも2回目は1.5万枚配ったのに入会につながりませんでした。2回目の体験会では一人一人丁寧に見てあげられなかったからではないかと思っています。
また、マーケティングに詳しい知人の助言で、チラシ文章を変えました。それまでは「楽しく走る」「運動が好きになる」という文章だったのですが、それは自分たちコーチ側の気持ちであって、お客さんに刺さる言葉ではない、と言われました。そこでお客さんの目線で考えて「足が速くなる」「運動神経が良くなる」と書き換えたチラシを配りました。日々試行錯誤ですね。
ー佐久間さんの今後の目標を教えてください。
目標もなりたい姿も特に浮かばないです。高校生の頃から将来をあんまり考えてこなくて。陸上が強くなれるように、とか次の大会で勝てるように頑張ろう、とか、少し先の目標しか考えていませんでした。
マジシャンになったり陸上教室を開いたりと、前は考えたこともなかったことを今こうしてやっている。だから将来どうなっているかなんて分からないと思います。今やりたいことをやってきたらこうなっているので、10年後も自分がやりたいと思っていること、好きなことだけをやっていたいと思っています。
ー「ちいさくつくってためす」を実践する高校生たちにメッセージをお願いします
一歩踏み出す時は、失敗したらどうしよう、恥ずかしい、と思かもしれません。でも、踏み出してしまえば何とも思わなくなります。まず、踏み出すことが大事です。見えることが変わるし、やってみないと全体が見えてこないこともある。だからこそ、踏み出してから考えてみればいいと思います。いっぱいチャレンジしてください!
ーありがとうございました!
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