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②キモ男の純情な暴走
「これ、君が無くした指輪だろう?僕がずっと探していたんだ」
ミドリは、彼が自分の部屋に忍び込み、それを盗み出していたことを悟った。恐怖と嫌悪感で、彼女は言葉を失った。
ケンタロウは、ミドリの反応を気にも留めず、結婚の準備を始めた。両家の顔合わせ、結婚式場の予約、新婚旅行の手配。彼は、ミドリの服や下着を勝手に購入し、彼女に着せることを想像して自慰行為に耽った。結婚式場では、ミドリのウェディングドレス姿を撮影した写真を、自分の部屋に飾ることを計画していた。
そして、ケンタロウは母親にミドリとの結婚を報告した。
「母さん、僕、ミドリと結婚するんだ!」
ケンタロウの母親は、息子の報告に狂喜乱舞した。彼女は、息子を溺愛しており、彼の望みを何でも叶えようとしてきた。
「まあ!ミドリさんと!良かったわね、ケンタロウ!お母さん、ずっと二人が一緒になることを願っていたのよ!さあ、最高の結婚式にしてあげましょう!」
ケンタロウの母親は、ミドリのことを「ケンタロウの花嫁にふさわしい完璧な女性」だと信じ込んでいた。彼女は、積極的に結婚の準備を進め、ミドリに高価な贈り物を贈り、周囲に二人の結婚を吹聴して回った。
「うちのケンタロウとミドリさんは、最高のカップルなのよ!誰も二人を邪魔することはできないわ!」
彼女の言葉には、異様なまでの執着と独占欲が込められていた。彼女は、ミドリの過去や家族構成などを根掘り葉掘り聞き出し、まるで品定めをするかのようにミドリを観察した。ミドリは、ケンタロウの母親の異様な視線に、常に監視されているような恐怖を感じていた。
両親への挨拶もケンタロウの母親が主導した。「ミドリさんのご両親にご挨拶をさせてください!」と、ミドリの両親に高価な手土産を持参し、ミドリが過去にケンタロウと恋仲であったような話をでっち上げた。両親は、娘から過去の話を聞いていたため怪訝な顔をしたが、ケンタロウの母親の勢いに押され、曖昧に相槌を打つしかなかった。
結婚式場の選定も、ケンタロウの母親が独断で決めた。「ミドリさんには、最高に美しい花嫁姿でいてもらわなければ!この教会は、私が若い頃から憧れていた場所なの。」と、ミドリの意見を聞くことなく、豪華絢爛な教会を予約した。
新婚旅行も同様だった。「新婚旅行は、二人の愛を育む大切な時間。ヨーロッパでロマンチックな思い出を作ってきてちょうだい!」と、ミドリが一度も行ったことのないヨーロッパ周遊旅行を、一方的に手配した。
一方、ミドリの夫のタカシは、ミドリの変化にいち早く気づいていた。彼女が最近、何かを隠しているようなそわそわした態度や、時折見せる不安そうな表情。彼は、ミドリを心配し、優しく問いかけたが、彼女は何も話そうとしなかった。
「ミドリ、何かあったのか?話してほしい」
タカシは、ミドリの手を握り、優しく問いかけた。しかし、ミドリは涙を浮かべるだけで、何も答えることができなかった。
タカシは、ミドリを信じていた。彼女が自分を裏切るようなことをするはずがないと。しかし、彼の不安は日増しに大きくなっていった。
ある日、タカシはミドリの行動を不審に思い、彼女の後をつけた。そこで彼が見たのは、ミドリがケンタロウと親しげに話している姿だった。
タカシは、激しい嫉妬と怒りに駆られた。彼は、二人の間に割って入り、ケンタロウに詰め寄った。
「お前は誰だ?ミドリに何をしている!」
タカシの剣幕に、ケンタロウは怯んだ。しかし、彼はすぐにいつものねっとりとした笑みを浮かべ、タカシを見下した。
「僕はミドリの婚約者だ。君こそ誰だ?」
ケンタロウの言葉に、タカシは愕然とした。彼は、ミドリが自分に隠していたことを知り、激しいショックを受けた。