note 92: 流山児★事務所「寺山修司〜過激なる疾走〜」を見た!
8月20日木曜日から、下北沢の劇団「ザ・スズナリ」で、流山児★事務所公演「高取英メモリアル 寺山修司〜過激なる疾走〜」を見てきた。
流山児 祥さんは1980年にニューヨークで「奴婢訓」を上演していた寺山修司さんとともに高取英さんと出会ったそうだ。
そして1983年に流山児さんは寺山さんに「新・邪宗門」の執筆を依頼したが、執筆中に肝硬変が悪化し、「新・邪宗門」は岸田理生さん、高取さん、流山児さん改稿、寺山さん補筆で完成し、これが寺山さんの絶筆となった。
「寺山修司〜過激なる疾走〜」は高取さんがもともと自らの劇団、月蝕歌劇団のために書いたもので、ぼくは月蝕版を2017年に見ている。
この演劇は、寺山修司の生涯と、寺山の演劇「田園に死す」「邪宗門」から母子の物語を、「盲人書簡〜上海編〜」から明智探偵と盲目になった小林少年の物語を取り出し、寺山母子の実像と寺山演劇の母子を、そして寺山の編集者であった中井英夫と盲人書簡の明智を交錯させたものだ。
ぼくが見た2017年月蝕版では、少年修司を岬 花菜音さん、青年修司を高田ゆかさん、そして中年修司を白川沙夜さんという、3人の女優さんが演じた。
(普通に美人の白川さんがメイクで寺山修司ソックリになっていてウケたw
今回は、同じ高取脚本「寺山修司〜過激なる疾走〜」を、流山児★事務所が演じた。
そして少年修司に月蝕版と同じ花音菜さんを配したのを始め、高取さんの実娘で月蝕歌劇団を継承している白永歩美さん、そして石津ゆりさんという、月蝕歌劇団のメンバーが出演した。
そして廻天百眼から紅日毬子さんが出演した。
ぼくは実は紅日さんを初めて見たのは2015年8月の月蝕の実験室公演なので、月蝕のイメージが鮮烈に残っている。
ということで、高取脚本を、他劇団の舞台・演出で見られる(高取脚本は相当独特なので、他劇団でやるとどうなるのか?全然想像がつかない)というだけでも楽しいのに、そこに大好きな月蝕の女優さんたちが出てくるということで、もうドーカなっちゃうんじゃないかってぐらい楽しみだった。
劇場は下北沢「ザ・スズナリ」だ。
名前の通り、去年までなら200人以上入れる劇場だが、流行病の関係で定員50名ぐらい?にソーシャル・ディスタンスが取られた余裕のある座席で、あっという間に満員札止めになってしまった。
ぼくはかろうじて木曜初日と、金曜2日目が見られて良かった。
上にも書いたが、戯曲の内容は、半ば伝説化された劇作家・寺山修司の実像と彼が戯曲に偽悪的に描いた幻想の母子の世界、そして明智と盲人小林少年の妖しい関係と中井英夫と寺山の関係を交錯させることで、寺山のスタッフとしてその実像をつぶさに見てきた、高取さんによる「寺山論」と「寺山演劇論」になっている。
そして流山児★事務所の舞台ではさらに新解釈を加え、流山児さんによる高取さん論も重ね合わされていると感じた。
流山児★事務所の舞台は、全体的にシャッキリ、クッキリしたスピーディーな演出で、役者さんの動きもテキパキしていて、非常に分かりやすかった。
舞台にプロジェクションで重ねられる映像もカッコ良く、音響も良くて、あっという間に時間が流れていく。
月蝕の舞台はどちらかというと観客に複数の解釈の余地を残す曖昧さがあって、役者さんの動きも人間の生理や重力による自然な動きを残したふわっとした感じ。
同じ脚本、同じ役者さんでもまったく違う。
いぜん同じ舞台を何度も見ると「時間的3D」みたいな効果で同じ舞台が立体的に分かると思ったことがあるが、今回は同じ脚本、同じ役者を違う舞台違う演出で見て「精神的3D」みたいな感じで、高取さん、寺山さん、そして流山児さんの精神の世界を覗き込むような体験が出来たと思う。
少年寺山を演じたのは月蝕版に続いて花音菜で、超人的ダンスは抑えられていたが、相変わらず舞台全体に良く鳴る声で元気いっぱいに純真な少年修司を演じていて良かった。
修司の母ハツを演じた伊藤弘子さんは、チャキチャキで元気のいいハツさんで、寺山の等身大の実像が映し出されて良かった。
明智と小林少年が石津ゆりさんと紅日毬子さんで、これが超ウケた。
昨年11月に「新選組in 1944〜ナチス少年合唱団〜」(なにこの題名。。)で演じたナチスの将校メンゲルと、人体実験科学者エルザを演じた2人が、妖しい明智と、視力を失った哀れな小林少年になって道行きするところがワクワク楽しい。
この2人の盲人書簡を全長版で見たい。
あと、石津さんの演じるA子さんが不思議に色っぽくて良かった。
あと、紅日さんが演じる文学仲間の田山(山田太一を思わせる)はめっちゃ楽しいオッサンぶりで笑えた。(才能豊か過ぎ!w
中年修司はガッチリした男優の里見和彦さんが演じていて、人間くさい寺山だった。
流山児版の新趣向は三島割腹事件を取り入れたところ。
ぼくはさいきんふとしたきっかけで三島事件についていろいろ調べていたので、奇縁を感じた。
劇中の三島は無邪気で純粋な文学青年で、寺山と肝胆相照らす同志として文学談義を交わす場面も楽しい。
高取演劇といえばゆるいギャグだが、今回は伊藤裕作さんが一手に引き受けていてすごかった。
ゆるいギャグに関してはアフタートークでもお話があり、流山児さんの高取さんへのメッセージを感じた。
全体的にハッピーで、巨大な才能が認められて開花される芸術家と、その生きた時代の幸福感が弾ける。
でも、われわれは、そのすぐ後に三島が非業の死を遂げ、やがて寺山が若くして病没することを知っている。
演劇がやがて終わってしまう寂しさと、才能ある芸術家が夭折する悲しさが同期する。
白永さんが演じるメフィストフェレスによって、時間軸を超えて修司たちが出会う高取さんお得意の趣向で、天真爛漫な少年修司のセリフ聞いて、ちょっと涙が出た。
ということで、ダラダラとネタバレを書いてしまったが、まだまだいろんな趣向が詰まった楽しい舞台だった。
この舞台、なんとオンライン配信されるそうだ。
明日、8月31日23時59分までということで、ぜひご覧ください。
(関係者でもないのに宣伝。。
あと、DVDも出るそうで、これにはアフタートークも収録されるそうだ。
アフタートーク、ぼくは初日と2日目だけ見たが、時代の証言というか、秘話というか、暴露というか、たいへん興味深く、爆笑する話もあった。
商品化されるので、記憶に頼った文字起こしみたいなのはやめるけど、とりあえず中森明夫さんが花音菜推しだということが分かって超ウケたw
今後も高取演劇を色んな劇団が演じるのが見たいし、もちろん年末の月蝕歌劇団「陰陽師・安倍晴明〜最終決戦〜」も超楽しみだ。
高取さんの姿は見えなくなっても、その言葉は残り、役者さんが演じる限り、感動は続く。
(この項終わり)