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人文学の生存戦略 〜私ごとですがバズりました〜
私ごとですがバズりました。
ここ数日、自分のXがバズった。ここまでバズったのは初めてだった。バズったポストは下の3つだ。
人文系で勝つ方法って、三宅香帆、ゆる言語学ラジオ、COTEN、ゲンロンしかないの少し絶望的に思える。
— 蓮見スイ (@HasumiSuis) January 27, 2025
人文知のマネタイズする手法が高度すぎて、正直後発でやっていくのがかなり苦しいように思える。
文学部にいる学生、全員いつかは國分功一郎や千葉雅也みたいにアカデミックでバリバリやっていくか、ゆる言語学ラジオや三宅香帆みたいに一般向けの人文コンテンツで食っていくかの2択しか考えてない。
— 蓮見スイ (@HasumiSuis) January 28, 2025
これ系の本で、ガチの教養書あげてる本を初めて見た pic.twitter.com/xVDsjm1cnI
— 蓮見スイ (@HasumiSuis) January 28, 2025
一つ目と、二つ目のツイートは結構同じ文脈にあるのだが、三つ目に関しては完全に誤算で、適当に呟いたことがバズってしまった。
ちなみに教養書100冊本は、amazon在庫が無くなったらしい。偶発とはいえ、自分のツイートきっかけで本がたくさん売れたのはちょっと面白い。
さて、このようなツイートを呟いた背景は、人文系で生きていくにはどうすれば良いか、今の人文系はやや下火になっているが盛り上げるにはどうすれば良いのか、この二つのやるせなさを感じていたことだ。
人文系は、お金が稼げない。それはアカデミックにおいても商業においても変わらないだろう。ある准教授が言っていたが、やっと奨学金を返せたのは45歳を超えてからだったらしい。その准教授はその分野で名前を馳せているにも関わらず。
その准教授でさえそんな有様なのだから、人文系は魔境だ。
人文系は本の学問だ。本の中にある先行研究をあたりながら新たな研究を模索していく。ただでさえ出版は斜陽産業と呼ばれるのだから、人文系なんて日の落ちた業界と言っても良いかもしれない。
けれど人文学は豊かな営みだ。人々の文化を記録したり、人々が気づかない無意識を研究したり、新たな視座を与えてくれるものだ。その営みを絶やしてはいけない。
一応自分のことを紹介しておくと、早稲田大学文化構想学部2年の普通の大学生、人文学が好きな大学生だ。
「人文学の生存戦略」という仰々しいタイトルを付けたが、別に人文系でお金を稼いでる人間ではない。むしろ稼ぎたいなーと思っているただのワナビー。
だからこそ、初学者の侵入を妨げている要因に関しては下手な研究者よりも実感としてあるかもしれない。
正直、多くの人に人文学に触れてもらう方法論というのは思いついてない。
それは、多くの人文系に携わったことがある人間の永遠のテーマだ。
このnoteでは自分なりの考えをまとめていきたい。
三宅香帆一人勝ち
人文系で勝つ方法って、三宅香帆、ゆる言語学ラジオ、COTEN、ゲンロンしかないの少し絶望的に思える。
— 蓮見スイ (@HasumiSuis) January 27, 2025
人文知のマネタイズする手法が高度すぎて、正直後発でやっていくのがかなり苦しいように思える。
わざわざこのツイートの最初に三宅香帆氏の名前を出したのは、Xで一時期「三宅香帆」ひとり勝ちというワードを見かけたからだ。ゲンロンで行われたトークイベントにおいて、三宅香帆氏が大きな存在力を見せたことに由来する。
そのワード自体はゲンロンウォッチの植田将暉氏のポストが元ネタだ。
この「勝ち」という言葉に、人文系に勝ち負けもないだろうがと主張していた人もいたけれど、これを前提にポストしていたので矛を納めてほしい。
東浩紀ひとり勝ちから三宅香帆ひとり勝ちへ(ゴゴゴゴゴ
— Masaki Ueta (@reRenaissancist) January 21, 2025
いま知の中心は関西にあるらしいので京都でイベントやります。(なお会場完売)
— Masaki Ueta (@reRenaissancist) January 10, 2025
松田樹×三宅香帆×森脇透青 司会=植田将暉 2025年に批評は存在できるのか?──90年代生まれが見透す「これから」の論壇【ゲンロンカフェ出張版 in 京都 #ゲンロン250119https://t.co/aYlZXYEtEr
三宅香帆氏は文芸評論家で、「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」が大ヒットし一般層でも知られる人物である。他にも「好きを言語化する技術」などでも話題になっている。
よく言われているのは、彼女はうまく人文系をビジネスの文脈に結合させたからヒットしたと言われている。「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」のようなコピーライティングセンスはかなり高く、いわばビジネス書的なタイトルの付け方のように思える。
それ以前にもレジー氏の「ファスト教養」や稲田豊史氏の「映画を早送りで観る人たち」にも連なる系列の本だ。
いわば現代の事象を、人文、批評の文脈で分析している本だ。これらがまだ売れているのは、やや希望には見えるが。
人文×ビジネス
これ系の本で、ガチの教養書あげてる本を初めて見た pic.twitter.com/xVDsjm1cnI
— 蓮見スイ (@HasumiSuis) January 28, 2025
教養書100冊本についてのツイートが11万いいねを得て、実際にamazon在庫が無くなり、ほしい物リストの本ランキング一位になるほどに売れたのは、少なくとも人々の中で教養、人文学の知識を手に入れたいという意識は消えてないからだろう。薄い教養書よりは、ちゃんとした本が紹介されている教養書の方を読みたいと思っているはずだ。
この著者は人文系ではなくビジネス畑の方で、自分は少しこういった本を書くのが人文系の研究者じゃなくて少し悲しくなった。
まあ、もちろん柄谷行人や浅田彰といった哲学者らが書いた、必読書150という本もあるけれど、世間的知名度は低い。こっちの方が内容はガチだ。
日本では本が売れないと言われるけれど、その一方ビジネス書や自己啓発本はかなり売れている。
日本出版販売株式会社の去年の年間ベストセラーランキング総合を見ると、エンタメ本に混ざって「頭のいい人が話す前に考えていること」「書いてはいけない」「新版 科学がつきとめた「運のいい人」」などのビジネス書等が上位に入っている。
特に「頭のいい人が話す前に考えていること」を書いている安達裕哉氏はコンサル出身の方で、ビジネス畑の人だ。この本を書いているのは、深い知識を持つ人文系の人たちではない。(頭の良さの指標は人によって異なるので、別にビジネス畑の人を貶しているわけではない)
知の権威をビジネス畑の人たちに奪われてしまっているんだろうなと思う。
少なくとも、こういった種の本を人文系の人が書くことは少ない。言い方は悪いが、機会損失のように思える。
やや話が逸れてしまった気もするが、三宅香帆氏はこのビジネス書を買う層にもリーチしたからこそ売れたのだろう。
世間の人が人文系に興味を無くしたかと言うと、絶対違うだろう。興味があっても、どうやって情報にアクセスするのかわからない状況にある。
ゆる言語学ラジオ・COTENラジオ
人文系で勝つ方法って、三宅香帆、ゆる言語学ラジオ、COTEN、ゲンロンしかないの少し絶望的に思える。
— 蓮見スイ (@HasumiSuis) January 27, 2025
人文知のマネタイズする手法が高度すぎて、正直後発でやっていくのがかなり苦しいように思える。
人文系である程度成功している人たちに、ゆる言語学ラジオ、COTENラジオがある。
ゆる言語学ラジオは、言語学のラジオコンテンツで、ゆる民俗、ゆる哲学などのフランチャイズ化を行って、池袋にゆる学徒カフェというリアル店舗を持つほどに影響力を増している。
COTENラジオは、歴史系のラジオコンテンツで、世界史データベースを作ることを目標としており、最近ではサイバーエージェントと業務提携して、「人文知研究所」を新設し話題になった。
映像コンテンツは当たり前だが強い。昔なら中田敦彦のYouTube大学での本の解説が話題になってるし、本の要約チャンネルが多くのフォロワーを獲得している。
本を読むのは大変だけど、人の話ならいくらでも聞いていられるという人は多いだろう。本の中を探して、一つ面白いことを見つけるよりは、誰かが読んで面白いところを抽出してほしいと思うのは当然だろう。
ビジネス書から売上を奪い取れ!!
簡単に言えば、ビジネス書の市場は十分に成長しているから、いかにそれらに人文学の本を紛れこませるかが勝負だと思っている。三宅香帆氏が実践している方法だろう。
人文系には十分な読者が育っていない。人文系は複雑な話も多く、ある程度読み慣れていないと読むのが辛い。今の人文は、読者が育っていないまま難解な本を市場に投下して失敗しているのだろう。
あまり批判したくないのだが、例えばゲンロンは東浩紀というアイコンで人文に造形の深い読者を多く誘客してるビジネススタイルである。確かにゲンロンは読者の育成を行っているが、前提としてある程度わかっている人たちじゃないと議論の中身すらわからない。偏差値65ぐらいの能力の人たちを偏差値70の水準に上げる取り組みだ。少なくとも、人文学の素養がない人にとっては辛いだろう。
まず多くの読者を囲い込み分母を増やして育成し、読書能力が上がった人たちをちゃんと人文学の専門的なところに連れて行く、そういう取り組みが必要だ。
今の人文学の状況は、言い方は悪いが育成をろくに行っておらず中途採用ばかりを取る業界で人手不足を嘆いているようなものだと正直思う。
大学の授業を聞いていると、「この学問は義務教育で教えるべきなんですよね」とか「高校で教えてないから、世間は無知なままなんだ」と嘆いている教員が多い。
アカデミックの人たちは専門研究に必死で、市民対話をする余裕がないのはわかるが、結局その人たちが市民対話をしない限りその学問はどこにも広まっていかない。
入門書の入門書
よく言われることだが、入門書自体が難しすぎる時がある。〜〜入門と書いている本買って、それで入門してみるかと意気揚々と読んでみると難しくて訳わからないなーと放り投げることがある。他の本を何冊か読んでるうちに理解できるようになるのだが、いわば耐えの時間が発生する。自分は人文系が好きだし、レポートで使えるかもと思うので、それも我慢できるのだが普通の人なら面倒臭いなとやめてしまうだろう。
入門書が難しいのは、研究者仕草というか誤りを伝えてしまったり簡単だけど誤読をさせかねない表現を避けた結果だろう。研究者には正確性が必要だけれど、一般向けの書籍ではその難解さが読者離れの原因となってしまう。
自分は学部生なので何の責任もないのでこのような軽率なことが言えるのだが、ちゃんとしたポストのある人には難しいだろう。それは共感する。
誤りのない難解書籍より、誤りのある簡単書籍
人文系で重要なのは読者の増加と、それに伴う読者の水準の向上だ。そのためには分母を増やさないとどうにもならない。
自分もこんなこと言っていて胸が苦しいのだが、まず知ってもらわないとどうにもならない。正確性はその次だ。まず、面白いと思ってもらわないとどうにもならない。
自分はつい会話の中で人文系の学者を引用する時があるのだが、例えばデリダ、ベンヤミン、レヴィ=ストロースといった人文系を学ぶ人の中では当たり前の学者の名前すら、人文系に疎い知り合いには伝わらないことがある。
正直人文系でも花形な哲学でそれぐらいなのだ。おそらくヴェーバー、ブルデュー、ギデンズといった社会学の重鎮も、マクルーハン、ボードリヤールといったメディア論学者なんて知られていないだろう。
哲学はまだ読みやすい解説書が多く出ているが、そのほかの人文系はあまり取り沙汰されない。
人文学のアクセシビリティーを上げる
人文学はまだ本の中に閉じこもっている。一応個別的に解説はネットに上がっているから「作者名 著作名」と調べればある程度は解説も出てくるだろう。けれど、まずどうやって「作者名」、「著作名」を知るのだろうか。検索するにも、チャットGPTに聞くにも前提知識がないと調べることすらできない。
正直、自分が調査不足でいいコンテンツがあるよ、とか言われたらそれまでなのだが、少なくとも人文に興味のある自分にリーチしていないなら、それが問題だ。
まとまりきらない結論
正直、人文学の生存戦略はさまざまな難しさがある。
ひとまず上げた論点をまとめると
・面白い人文系の音声、映像コンテンツを作る
・もっと簡単な本を作ったり、ビジネス書の文脈で人文学を広める
・もっと人文学を利用しやすい形に変える。
人文学は正直、ライト層の開拓は浅く、アッパーミドルやアッパー層の開拓ばかりを念入りに行っている。それだと余計に業界が痩せていく。
ライト層の存在なしに、アッパー層は生まれない。誰もが最初は初学者だから。
もちろん、先にあげたような取り組みをしている人は多くいる。バズったツイートで言及した三宅香帆氏、ゆる言語学ラジオetcは上手くやっているだろう。
でも、明らかに本数が足りない。人文学の楽しさに気がついた人たちがもっと発信していかないと、結局は内輪ノリだけの世界になる。それはとても勿体無い。
ビジネス本のライターの分母に比べたら、明らかに人文系のライターは少ない。でもそれは人文系がお金になりにくいというよりも、人文学がちゃんとした読者を育成できてないから売れてないだけだろう。人文学も役に立つことがたくさんあるから、価値がないという訳ではない。
自分は思う、もっと軽率に人文系を発信していこう。自分が好きなものがあったら、それをライト層にも届くような軽い話し口で面白く伝えていこう。
それは責任のある大学教員らには難しいところがある。
だから、学部生や元文学部で今は普通に働いている諸君、人文をもっと広めよう!
ビジネス書を多く書いているのは、経営の教授らではない。会社社長ら、実務家だ。
人文学における実践者は、大学教員ではない。人文学を学んだ君たち在野の人間だ。
間違いを恐れるな。間違いがあったら事実確認をした上で訂正すればいい。ビジネス書に誤りがあっても、それなりに見過ごされてしまっているだろう。ゆる言語学ラジオの堀元見氏が「ビジネス書ベストセラーを100冊読んで分かった成功の黄金律」でビジネス書には矛盾する教えや、ある本の劣化コピーが繰り返されていると指摘したように。
粗造乱造されるコンテンツは、市場が成長している証拠だ。少なくとも、そのような現象が問題になるぐらい人文学の市場が成長する必要があるだろう。
市場が育ちきっていない市場で、正確さをこだわりすぎていては衰退していくばかりだ。
自分は聞きたい、「あの本めちゃくちゃ売れたけど、めちゃくちゃ誤りが含まれていて良くないよね」という会話をたくさん。
人文学のある分野では、まずめちゃくちゃ売れた一般書の存在がそもそもなかったりする。まず、それを作ってからの問題だ。
自分は大学2年生で、このようなツイートでバズってしまったので何かしら発信する責任があるように感じている。多分近いうちにYoutubeなりポッドキャストを始めると思う。
あと、自分は片手間にWebサイト運営をしており、キンショー君というkindle unlimited紹介サイトを運営している。
単純に初歩的なウェブ技術を使えるというだけなのだが、つい最近zinbun.jpというドメインを取得した。人文の名前を冠するドメインを!
別にそれは前の所有者と色々交渉をした訳ではなく、単純に誰にも使われていなかった。ドメイン取得サイトで空いているドメインを探していたら見つかった。
ものすごく悲しくないか、zinbun.jpという日本の人文の象徴のようなドメインが誰にも使われず眠っていた事実が。
人文のアクセシビリティーを上げるために、長期的な目標になるがzinbun.jpで何かサイトを作ってみたいと思う。
これまで語ったのは、夢物語だ。けれど夢では終わらせたくない。
このnoteは、人文学をもっとメジャーにするための一つの狼煙だ。