45年ぶりのワイキキと父の勇気
今、父とそのパートナーがハワイ島まで遊びにきてくれているが、パートナーにとっては初めてのハワイということもあり、父からワイキキに連れて行ってほしいというリクエストがあった。
自然派の夫は喧騒や商業化された観光地が嫌いで、アメリカ本土に住んでいるときはハワイの他の島に行くことはあってもオアフ島を避けていた。しかし父のたっての願いでワイキキに行くことに承諾してくれた。
当日、予約していたアラワイ運河沿いのairbnbの近くまで車で来たとき父が思い出した。
「初めてハワイに来た時に泊まったのはこの近くだったよ。」
実は45年ほど前に、父は祖母、母、私と妹の四人をハワイに遊びに連れてきてくれた。泊まったところはホテルではなく、仕事の同僚の伝手で借りたキッチン付きのコンドミニアムであった。もちろんairbnbなどなかった頃の話だ。今考えるとよくそんなところを借りられたと思う。
父にそう言われてみて茶色い外観のビル、当時のアメリカの最新式のキッチン、家から見える運河とその向こうにかかる虹を思い出した。そしてそこで自炊をして楽しかったことも。
当時は日本からの観光客がポツポツ訪れ始めた頃で、海外旅行に慣れない日本人をカモにした犯罪も増えた頃だったそうだ。父は同僚から日本人観光客が身包み剥がされてアラワイ運河に投げ込まれたという、今考えると本当か嘘か分からないような話を聞いていたので、四人の女性を守るために運河のそばを歩くときは「気をつけて。お父さんから離れないで!」と私たちに言い聞かせ緊張しながら歩いていたという。私も父に遅れを取らないように必死に歩いた記憶がある。
45年後、父は80代後半になった。誰も歳を聞くとびっくりするほど元気だがそれでも足は遅くなった。その父が遅れを取らないように歩調を合わせてワイキキの街を歩くのは感慨深い。
この時のハワイの旅が楽しかったことが、その後海外に出て行くことへの興味につながっている。海外に行ったこともなく英語も大してできない普通のサラリーマンだった父が、大金と勇気を出してハワイに連れて来てくれたことに感謝である。