君がいなくなっても
クライマックスシリーズ ファーストステージ第3戦、ベイスターズは阪神に負け越し敗退となった。
分かっていたことだ。むしろ3戦目までやらせてもらえてよかったじゃないか。
阪神は強い。それは横浜ファンが一番知っている。トゥモアナトゥモアナ。
あ、明日からはもう試合がないんだった…。
ラミレス監督は続投か。他にいないよな。まあいいよ、その代わり来年こそは優勝できるチームにしてくれよ。
気持ちを来季へ向けてなんとか切り替えようとしていた時、ひとつのニュースが入ってきた。
「筒香が来季メジャー挑戦!球団もポスティング容認」
そうだった、筒香はメジャー希望なのだった。このオフに行くかもしれないと覚悟はしていたけれど、心のどこかで「本当に行くのかな」「なんだかんだで残ってくれるのでは」と思っていたのだ。
どんどん入ってくる筒香のニュース。どうやら仲間の選手達にもメジャー挑戦を伝えたようだ…。待ってくれよ、仲間にももう別れを告げたのか?
ついさっきまでハマスタのベンチでニコニコと選手達と話していたじゃないか。
いつだってハマスタで会えると思っていたから、筒香のユニフォームもグッズもほとんど持っていない。こんなことならもっとたくさん買って応援すればよかった。
どうして急にお別れしなくちゃいけないんだよ…。
側にいてくれることがあたりまえだと思っていた。離れることになって気付くなんて私はバカだ。苦しい時、明日への希望が見えない時、いつも私達を鼓舞してくれたのは君だったのに。
野球の別れは恋愛の別れと同じだと思う。側にいなくなって初めて、その人の存在の大きさを感じてしまう。
「男の人を忘れるには男の人よね」と出会いの場に行っても、忘れられない人とつい比べてしまい「あぁ、やっぱりあの人のほうが素敵だったな…」なんて思い出してしまうのである。
筒香がいなくなった分、球団は補強もしてくれるのだろう。でも私は新しく来た選手を心から応援できるだろうか。
「筒香だったらこんなふうにしてくれたのに。やっぱり筒香じゃなきゃダメなんだよ…」なんて思ってしまわないだろうか。
メジャー挑戦が子供の頃からの夢だったというのは前から聞いていた。
オフにドミニカのウィンターリーグで子供みたいに楽しそうに野球をやっていたのも見てきた。
私は就職難の時代にOLになり、胸にあった夢とかやりたいこととかを閉じ込めて就職した。その後も自分で勝手に敷いたレールからはみ出さないよう歩いてきた。でもこれでよかったんだろうかと、急に虚しくなり涙がこぼれる時がある。
だからこそ、筒香には私の分まで夢を叶えて欲しい。周りがなんて言おうと、無理だと笑われようと、自分の挑戦したい気持ち以上に大事なことなんて無いんだ。
私は昔の自分に言えなかったことを筒香に伝えたい。いや、筒香はもう分かっている。だから夢を諦めないという選択をしたのだ。
昔、恋愛が成就しなかった時に「いつかすれ違った時に後悔させるような女になってやる!」と意気込んだことがある。一度や二度とじゃない。そんなことも毎回、時間が経てば忘れてしまったけど。
筒香にも数年後、「ベイスターズ、強くなったな、いいチームになったな、あの時残っておけばよかったかな」と少し後悔させるようなチームになって欲しい。それが筒香も一番喜んでくれるはずだから。
今回こそは、この気持ちを忘れないでいるよ。
夢を叶えた君がいつか日本に帰ってきた時、迷いなくベイスターズを選んでもらえるように。
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