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J・B・テイラー『奇跡の脳』にて

この書物は、旅に出た主人公が、悟りを得て、帰還する物語です。

本書の前半部分は、脳科学者の目から見た脳卒中の発症と手術とリハビリの様子が、生々しいタッチで描かれています。ところが後半になると、ムードが一転し、「右脳マインドのススメ」とでもいうべき内容になります。

――p.338 訳者あとがき 竹内 薫

その発作の間も、さすがに科学者である。自分の認知力が壊れていく様子を、しっかり記憶しておくように、必死で自分にいい聞かせる。そういう人だから、回復した後で、こういう本が書けたのである。

――p.340 解説 神経解剖学者が右脳に「目覚めた」時 養老孟司

『奇跡の脳』は、さまざまな「恵み」を届けてくれる本である。脳のはたらきの不思議をつたえる「科学本」であり、脳卒中にならないために、万が一なったときのために、あるいはなった後の回復のために心がけるべきことを学ぶことができる「健康本」でもある。著者の力強い生き方に勇気づけられる「啓発本」でもあるし、不幸な病気とそこからの回復の過程を通して得られた著者の深い洞察を受け取る、インスピレーションに満ちた「人生論」ともなっている。ぜひ、多くの方に読んでいただきたい、十年に一度の良書であると思う。

――p.344 解説 失われて初めて分かること 茂木健一郎

この本は、人間の脳の美しさと回復力のたくましさを物語っています。それは、常に変化に適応し、機能を回復する、脳本来の能力に由来するものなのです。つまりこの本は、右脳の意識への旅でもあり、そこでわたしは、深い安らぎに包まれました。みなさんが脳卒中を体験することなく、わたしと同じ深い安らぎを得る手助けをしたい。そんな思いで、わたしは左脳の機能を復活させました。どうか愉しい旅路を!

――pp.7-8 はじめに 心と心、脳と脳 ジル・ボルト・テイラー

脳卒中の最中、テイラーさんは涅槃(ニルヴァーナ)の境地に入りました。その心境に浸り続ける選択肢もあったのだが、英断を下します。

開頭手術をすると・・・、左脳を復活させると・・・。

一日に何百万回も「かいふくするのよ」と意を新たにしなければなりませんでした。挑戦するつもりはあるのか? 新しく発見した「エクスタシー」と形容できるほどの幸福と、一時的に別れを告げ、ふたたび外部の世界と向き合って、外部の世界を理解するつもりはあるか? 回復の苦しみに耐えるつもりはあるのか?

――p.174 11章「最も必要だったこと」

術後のテイラーさんは、過去の自我には戻りません。本来の右脳を生かし、本来の左脳を復活して、新たな自我を再構築して行きます。

わたしが脳卒中によって得た「新たな発見」は、こう言えるでしょう。
「頭の中でほんの一歩踏み出せば、そこには心の平和がある。そこに近づくためには、いつも人を支配している左脳の声を黙らせるだけでいい」

――pp.175-176 11章「最も必要だったこと」

これはものすごい書物です。母親を介護しつつ、言語意識の探究に執着する私に、絶妙なタイミングで、近所の本屋で、出会いました。言語そのものに言及するところがある書物に外れはないと思います。

次の記事で、言語に言及するところを取り出します。私たちは、文字を読むとき、エネルギーを大量に使っていることを忘れているようです。

以上、言語学的制約から自由になるために。