術前に飲ませていいの? 〜 NSAIDs 〜
「手術の前に今飲んでいるお薬は飲ませてもいいの?」
「何日前から飲ませるのを中止したほうがいいの?」
これらは薬の作用や代謝によって変わってきます。
手術前に飲んで欲しくないお薬にはいくつかあります。
例えば、ACE阻害薬や抗凝固薬、NSAIDsなどです。
その中でも今回はNSAIDsについてお話しさせて頂きます。
NSAIDsは「抗炎症効果」「鎮痛効果」「解熱効果」があります。これには炎症や痛覚過敏、血小板凝集、好中球遊走などの関わるプロスタグランジン(PG)やロイコトリエン(LT)、トロンボキサン(TX)を細胞膜のリン脂質より産生する流れとしてアラキドン酸カスケードというものが強く関わっています。NSAIDsはその流れの中にあるシクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素を阻害し、PGやTXA2などの産生を低下させます。
PGやTXA2には炎症を引き起こす作用の他にも、腎臓の血流量調節や血液凝固系への作用などがあります。
内因性PGは腎臓の輸出/入細動脈の血流量を調節する機能を持っております。
これが阻害されることで、腎血流を維持する機能が低下します。
麻酔をかける際に血圧や心拍出量などの管理により慎重になる必要が出てきます。
近年はCOX-2阻害選択性の高いNSAIDsも多くございますが、選択性が高ければ腎機能に安全とは言えません。
TXA2やPGI2には血液凝固作用や血管拡張/収縮に関わっております。
COX-1の阻害によりTXA2の産生が抑制されます。
TXA2は凝集した血小板から放出され、血小板凝集と血管収縮を促します。
これが少なくなることで出血傾向を促進します。
一方、COX-2の阻害によりPGI2の産生が抑制されます。
PGI2は血管内皮で産生され、血小板凝集阻害と血管拡張作用を持ちます。
これが少なくなることで凝固能が亢進します。
これらの産生が阻害されるということは、手術の出血に対してより慎重になる必要が出てきます。
そのほかにも麻酔薬における薬剤アレルギーが発生した際などのステロイドの適応が疑われる症例でも、術前にNSAIDsが使用されていると投薬により慎重にならざるを得なくなります。
NSAIDsの作用をまとめると…
・PG産生を阻害するにより腎血流の調節機能が阻害されてしまう
・TXA2やPGI2の阻害により、外科手術の出血に対してより慎重になる必要がある
・薬剤アレルギーの発生時に、ステロイドの使用に慎重になる必要がある。
当院ではご紹介いただく症例の中でも、特に骨折などの症例でNSAIDsが投与されているケースをよく見かけます。
先制鎮痛という考え方から、鎮痛薬は手術前の投与が検討される場合もあります。また疼痛を可能な限り取り除くことは動物福祉の観点から行う必要があるかと思います。
鎮痛や抗炎症作用の観点から使用を検討することも問題はございませんし正しいことなのですが、次の日に麻酔を予定されている場合などは、安全な麻酔管理のために、オピオイドなどを代替薬として検討していただくことも一つの方法です。
また、前十字靭帯断裂など救急ではない予定された手術の場合には1日半から2日前からの休薬していただけると良いかと思います。
NSAIDsに限ったお話ではございませんが、術前に使用できないから何もしないのではなく、代替となる薬の使用などを検討しながら鎮痛を行なっていくことを考えていただけたら幸いです。
こういったことからもその薬は
術前に必ず必要な状況なのかどうか?
術中術後の安全を脅かすことはないか?
を考慮しながら、投与を検討していただければと思います。
その他のお薬でも飲む必要のある薬、飲んで欲しくない薬とございますので、一つ一つ薬剤の作用機序や動物に与え得る影響を考えながら投与していけたらいいですね。
ご紹介前に投薬に迷われた場合は、お気軽にご相談ください。
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