手術note18 猫の膀胱憩室

6歳、去勢オスのスコティッシュフォールドが膀胱憩室疑いで来院されました。
3ヶ月間で4回の細菌性膀胱炎を繰り返し、かかりつけの動物病院さんで超音波検査をしたところ膀胱憩室が疑われました。

当院で逆行性尿路造影検査を実施し、膀胱頭側において突起状に造影剤の充填像を認め、膀胱憩室と診断しました(矢頭)。

尿膜管異常に関連した膀胱憩室があり、それが再発性細菌性膀胱炎の素因になっている可能性が高いと判断しました。確定診断と治療のために膀胱憩室の切除を実施することとしました。

腹部正中切開にて膀胱へアプローチしました。
膀胱尖部から臍方向へ連続する構造物があり、遺残した尿膜管組織が疑われました。


尿膜管の構造物が付着している領域の膀胱尖部を部分切除しました。


切除した膀胱壁の内腔側には陥凹構造があり膀胱憩室と判断しました。


膀胱切開部位は4-0PDSにて2層連続縫合(1層目:粘膜-粘膜下組織、2層目:筋膜-漿膜)しました。最後にリークチェックにて漏出がないことを確認してから閉創しました。

ポイント
尿膜管遺残は、本来退縮すべき尿膜管が出生後も管状構造として残存したものです。尿膜管遺残とともに膀胱尖部の尿膜管付着部が部分的に盲嚢を形成して膀胱腔内の憩室として残存するものがあり、このように形成された膀胱憩室を尿膜管憩室と呼びます。
膀胱の尿膜管憩室は細菌の温床となり、再発性もしくは慢性の尿路感染症の素因となるため、外科的な対応を検討されます。超音波画像検査や逆行性尿路造影検査といった非侵襲的な検査で診断できますが、意識して検査をしないと見逃してしまうこともあります。再発性細菌性膀胱炎や特に若齢動物における細菌性膀胱炎の診療の際には、膀胱憩室(尿膜管憩室)を鑑別診断として考えながら検査をすることが勧められます。

猫の細菌性膀胱炎」のコラムでは膀胱炎の診断のポイントも解説していますので、よろしければ併せてご覧下さい。

参考資料

Francesca Perondi,1 Caterina Puccinelli,1 Ilaria Lippi et al.Ultrasonographic Diagnosis of Urachal Anomalies in Cats and Dogs: Retrospective Study of 98 Cases (2009–2019).Vet Sci. 2020 Sep; 7(3): 84


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