手術note19 回盲部の肥厚病変
回盲部の肥厚病変の手術を行った犬の患者さんを紹介します。
患者さんは雑種犬(チワックス)、8歳6ヶ月齢、去勢オス、体重5.6kg(BCS3/5)です。
2ヶ月前から下痢があり、数日前から食欲低下、体重減少もみられるようになりました。かかりつけの動物病院さんで超音波検査をすると回盲部に肥厚性病変が見つました。血液検査では異常値はありません。手術を目的に当院へご紹介いただきました。
当院初診時の超音波検査所見です。
回腸遠位に全周性の筋層肥厚がありましたが、腸管壁の層構造は保持されていました。
ここまでで鑑別疾患は何を考えますか?
もちろん腫瘍性疾患は外せませんが、発生部位や特徴的な画像所見から当院では脂肪肉芽腫性リンパ管炎を鑑別診断の筆頭と考えました。
診断と治療を目的に回盲部病変の切除を行いました。
開腹すると回腸遠位部が硬く肥厚していました。
回腸遠位から結腸近位の切除範囲の間膜を処理、回盲部は重要な構造が近接しているため慎重に分離します。
病変を含めて回腸遠位から結腸近位を切除し、端々吻合しました。
回腸の径と結腸の径の差は、縫合のピッチで調整しました。
切除した病変の断面を見ると、超音波検査の特徴と一致しています。
病理検査結果は限局性腸管脂肪肉芽腫性リンパ管炎(Focal intestinal lipogranulomatous lymphangitis:FLL)でした。脂肪肉芽腫性リンパ管炎が限局した腸に生じているタイプです。
💡ポイント
腸管の脂肪肉芽腫性リンパ管炎はまだ馴染みのない病名かもしれませんが、ここ数年で学会などでも症例報告をみかけ、ある程度まとまった論文もみられるようになりました。
脂肪肉芽腫性リンパ管炎は、腸管のリンパ管の破綻と脂質に富むリンパ液の漏出に伴う異物反応が起こり、その結果として生じる局所の肉芽腫性炎症とされます。リンパ管拡張症や低タンパク血症と同時に発生することもあります。
まとまった報告はまだ少ないですが、好発犬種としてフレンチブルドッグが挙げられています。報告では回腸遠位と回結腸接合部での発生が多く、超音波検査では筋層の肥厚が特徴的であり、ほかには回腸の部分的な層構造消失、狭窄と近位における腸の拡張、腸間膜リンパ節腫脹(エコー源性と形は正常)などが挙げられています。
鑑別として腸管の腫瘍が挙げられますが、FNAや内視鏡生検などでは診断に至らないことが多く、確定診断には病変の切除による病理組織検査が必要です。
切除後の予後は様々で、完全寛解から不良な経過などが報告されいます。術後の補助治療の必要性や有効性についても明確にはなっていません。
まだまだ内科治療や予後に関して不明なことが多い疾患ですが、上記のような所見が得られた際には鑑別疾患の一つとして脂肪肉芽腫性リンパ管炎を検討する必要があります。
引用文献
Watson, V. E., M. M. Hobday, and A. C. Durham. "Focal intestinal lipogranulomatous lymphangitis in 6 dogs (2008–2011)." Journal of veterinary internal medicine 28.1 (2014): 48-51.
Lee, Hye-Won, et al. "Computed tomographic features of focal lipogranulomatous lymphangitis for differentiating from malignant intestinal lesions in a dog." Journal of Veterinary Science 24.2 (2023)
Lecoindre, A., et al. "Focal intestinal lipogranulomatous lymphangitis in 10 dogs." Journal of Small Animal Practice 57.9 (2016): 465-471.
Van Kruiningen, H. J., et al. "Lipogranulomatous lymphangitis in canine intestinal lymphangiectasia." Veterinary Pathology 21.4 (1984): 377-383.
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