猫の細菌性膀胱炎

猫の膀胱炎は下部尿路疾患(FLUTD)の一部ですが、今回は猫の膀胱炎を診察する際のポイントを2つご紹介します。

1.猫では”細菌性”膀胱炎が少ない
2.猫で”細菌性”膀胱炎を見たら背景疾患を探せ


この2つを意識することで不要な抗菌薬の使用を減らすこともできます。
それぞれを解説してみます。

1.猫では”細菌性”膀胱炎が少ない

犬では細菌性膀胱炎は一般的な泌尿器疾患ですが、猫では年齢別に発生率が異なります。
10歳以上の猫ではFLUTDの40~45%を占めますが、10歳以下では一般的な原因ではなく、若齢時の罹患率は3%未満との報告もあります(1)。
FLUTDの最も一般的な原因は特発性膀胱炎であり、10歳以上と比較し10歳未満の猫で発生率が多いです(2)。
これらのことから下部尿路徴候特に猫で、特に若齢の場合には「とりあえず抗菌薬」の処方が不適切であることがわかります。

細菌性膀胱炎と診断するためには尿検査で細菌の検出白血球の有意な増加を確認する必要があります。細菌の検出だけではコンタミや炎症を伴わない細菌尿(無症候性細菌尿)の可能性があるため、白血球の増加があるかどうかも併せて確認する必要があります。白血球の増加は一般的に穿刺尿で白血球が3~5個/hpf以上存在することとされます。
細菌性膀胱炎なのか無症候性細菌尿なのか区別がつかず、抗菌薬を乱用してしまう可能性があるため、注意が必要です。
2019年に報告された犬猫の細菌性尿路感染症におけるガイドラインでは、猫における細菌性膀胱炎の発生率は低いため、疑われた場合には全てで細菌培養検査の実施が推奨されています(4)。

2.猫で”細菌性”膀胱炎を見たら背景疾患を探せ

細菌性膀胱炎に罹患した猫の75~87%で、原因となる基礎疾患が特定されています。慢性腎疾患、糖尿病、甲状腺機能亢進症、神経疾患が原因として挙げられ、約8割といった多くの割合の猫に基礎疾患が存在していたことが報告されています(1)。

2019年のガイドラインでは再発性細菌性膀胱炎(1年に3回以上の膀胱炎または6ヶ月以内に2回以上の膀胱炎)に関して、基本的に何らかの基礎疾患があることが多いため以下の表の疾患を考慮する必要があると明記しています(4)。猫では一般的でない疾患も含まれていますが、猫で細菌性膀胱炎と診断したら、年齢問わずこれらの基礎疾患を考慮すべきです。

表2 再発性細菌性膀胱炎に患っている犬と猫で考慮すべき基礎疾患


若齢でFLUTDを認めた場合に細菌性膀胱炎は珍しいこと(抗菌薬は必要ないことが多い)、もしも細菌性膀胱炎と診断した場合は必ず基礎疾患をすべきであること(抗菌薬だけ投与していれば良い訳ではないかもしれない)、を意識することが大切です。

特に若齢猫で細菌性膀胱炎に遭遇した際は画像検査による異所性尿管や尿膜管遺残などの先天性の形態異常がないかを確認することも大切です。
手術noteでは膀胱憩室の猫さんの解説を載せていますので、よろしければそちらもご覧ください。

手術Note19 膀胱憩室へ

参考資料

  1. Roswitha Dorsch , Svenja Teichmann-Knorrn , Heidi Sjetne Lund ,Urinary tract infection and subclinical bacteriuria in cats: A clinical update.J Feline Med Surg. 2019 Nov;21(11):1023-1038

  2. R Dorsch 1, C Remer, C Sauter-Louis, K Hartmann et al,Feline lower urinary tract disease in a German cat population. A retrospective analysis of demographic data, causes and clinical signs.Tierarztl Prax Ausg K Kleintiere Heimtiere.2014;42(4):231-9

  3. Joseph W Bartges,Diagnosis of urinary tract infections.Vet Clin North Am Small Anim Pract.2004 Jul;34(4):923-33

  4. J Scott Weese , Joseph Blondeau, Dawn Boothe et al,International Society for Companion Animal Infectious Diseases (ISCAID) guidelines for the diagnosis and management of bacterial urinary tract infections in dogs and cats.Vet J.2019 May:247:8-25


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