手術note14 猫の肛門嚢アポクリン腺癌
肛門嚢炎を繰り返している猫(雑種、14歳、避妊メス)で肛門嚢の腫瘤がみられたた患者さんです。
猫では肛門嚢の腫瘍は比較的まれですが、細胞診で肛門嚢アポクリン腺癌が疑われたため、根治目的の手術を行うことになりました。
手術はジャックナイフ姿勢で実施します。
可能な限りサージカルマージンを確保するために、内側は肛門嚢の導管も含めて肛門粘膜で切開しました。
腫瘤が露出しないように肛門嚢の周囲を全周性に剥離と切開をすすめました。内側は内肛門括約筋(直腸壁)を残して剥離。
直腸の穿孔に注意しながら剥離を進めました。外肛門括約筋と肛門挙筋の一部は腫瘤側に含め、肛門嚢と腫瘤を一括して切除しました。
外肛門括約筋はおよそ40%切除しました。
切除部位は外肛門括約筋の連続性が失われ、また隔壁として支持性に乏しいため、残された外肛門括約筋と尾骨筋を用いて筋の欠損部を被覆して筋の連続性を保ちました。
皮下織、皮膚と肛門粘膜を縫合して手術終了。
術後は排便に関するトラブルは非常に軽度であり、QOLの改善も得られ、日常生活が維持出来ています。
POINT⭐️
⚫︎猫の肛門嚢アポクリン腺癌は稀で情報が少ないです。肛門嚢アポクリン腺癌の猫64例の症例シリーズの論文では、転移(腰下リンパ節、腹腔内臓器、胸腔内など)は16%と報告されています。その他、局所再発も多くみられるため経過は慎重にみる必要があります。生命予後に関しては論文中で、術後の中央生存期間3ヶ月、1年生存率19%、2年生存率0%と報告されており、犬の肛門嚢アポクリン腺癌に比べて予後が悪い印象があります。
⚫︎猫の便失禁を引き起こさずに切除できる肛門括約筋の範囲は不明です。一般的に犬では50%を超えると便失禁の可能性があげられています。今回は犬情報を参考に50%を超えない範囲で切除し、筋の欠損部位は周囲筋肉(尾骨筋)を用いて連続性を確保しました。
補助化学療法、放射線については明らかな有効性はわかっておりません。
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