手術note10 唾液瘤の手術
6ヶ月齢の猫さんが口腔内と下顎部の液体の貯留で来院されました。
唾液瘤(唾液嚢腫)と診断して手術を行いました。
術式 :下顎腺/舌下腺切除、開窓術、(同時に避妊手術)
手術時間:74分
麻酔時間:115分
まずは下顎腺と舌下腺の摘出から行いました。
仰臥位に保定します。
罹患側よりの傍正中で切皮し、嚢胞構造を確認します。
嚢胞構造を血管や神経の走行に注意して分離します。
嚢胞に付随する下顎腺と、それに続く導管と舌下腺を同定します。
下顎腺自体は嚢腫になっていないので、嚢胞構造と近接する位置に下顎腺はあります。(詳細は文末のポイントを参照してください)
導管を吻側方向へ慎重に分離します。導管は途中、顎二腹筋の背側を通過しているためそこを潜らせる必要があります。
導管が口腔内へと開口する直前まで十分に分離して、そこで離断して摘出しし、切開創を閉鎖します。
続いて口腔内の嚢胞構造に対する開窓術を行いました。
嚢胞構造を切開し、内腔を裏打ちしている膜状構造と口腔内粘膜を縫合することで開窓させます。
ポイント💡唾液瘤(sialocele)は唾液腺の病変ではありません
唾液が下顎に溜まって嚢胞状の病変を作る病態がしばしばみられます。
英語ではsialoceleと表現されることが多くsialo(唾液の)-cele(瘤、膨れ)という構成の言葉なので、唾液瘤、唾液嚢腫、唾液嚢胞などが適した日本語になると思いますが、国内での言葉の使用はあまり定まっていない様な印象を受けます。
ただし唾液腺嚢胞や唾液腺嚢腫という言葉はこの疾患の病態を誤って表現しており(英語にも腺という言葉入っていません)、病態の誤解につながっている思います。
この唾液瘤(sialocele)という病態は唾液腺が腫れているわけではありません。唾液腺からの導管のどこかに損傷があり、そこから周囲に唾液が漏れることで嚢胞状の病変が作られます。結果として唾液腺の周囲に唾液が貯留することが多いため、唾液腺自体の病変と誤認されていることがあります。
手術では嚢胞構造を摘出することが目的ではなく、唾液腺と導管をしっかりと切除することが重要です。下顎部にできるものは下顎腺からの導管から唾液が漏れていることが多く、導管に付随している舌下腺も含めて導管全体を切除します。下顎腺だけを切除しても、舌下腺や導管の切除が不十分であると再発の原因となります。
なお、この病態は犬に多いですが、猫にもまれに発生します。今回の様に若齢の猫での発生も論文報告されているので、種類や年齢を問わず起こり得る疾患として認識しておいた方が良さそうです。