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随伴現象説の定式化
一人の場合
随伴現象説によれば、意識やクオリアは物質の物理的状態に付随している現象である。すなわち、物理量の組み$${\{P_i\}}$$からメンタルな状態$${M}$$への写像$${S}$$が非物理的な意味で存在するというのが随伴現象説である。
すなわち、
$$
S: \{P_i\} \mapsto M
$$
である。あるいは、物理量を定義域、メンタルな状態を値域とする関数$${f_S}$$を用いて、
$$
f_S(\{P_i\} ) = M
$$
と書いた方がわかりやすいかもしれない(あまり一般的ではないが、関数は$${f}$$と書いた方が見慣れている方が多いと思われることから関数と表現する場合は写像の記号を$${f}$$の添字につけて表すことにする。)。
上の方で、「メンタルな状態$${M}$$への写像$${S}$$が非物理的な意味で存在する」と書いたが、いろいろな意味での存在があり、ここでは、「古典物理学的(非量子論的)に存在」、「量子物理学的に存在」、「非物理的に存在」の3種類を区別しておきたい。本稿では、古典物理学的(非量子論的)に存在することを実在すると呼ぶことにしたい。すなわち、$${P_i}$$は実在し、メンタルな状態$${M}$$と写像$${S}$$(あるいは関数$${f_S}$$)は実在しない。しかし、$${M}$$と$${S}$$は非物理的な意味で存在している。$${M}$$と$${S}$$が存在しているというのは、随伴現象説で考えるということの言い換えであり、そこに万人を納得させられそうな根拠はない。他の説に比べれば随伴現象説は問題が少ないので採用する程度の理由である。「量子物理学的に存在」ついては別途記載したい。
二人の場合
私(アリス)の意識$${M_a}$$とある他人(ボブ)の意識$${M_b}$$は、当然であるが、異なる物量の組み(異なる位置にある脳内の電位等)$${\{P_i\}}$$と$${\{P_j\}}$$にそれぞれ随伴している。
すなわち、
$$
f_S(\{P_i\} ) = M_a \\
f_S(\{P_j\} ) = M_b
$$
である。アリスとボブの物理量からメンタルな状態への写像は同じである必要はない(同じという根拠はない)が、本稿では記号をシンプルにするために同じ人間だからという理由で同じ写像ということにしておきたい。
世界には、アリスの意識が随伴している物理量とボブの意識が随伴している物理量が存在しているので、世界の状態は、$${\{\{P_i\},\{P_j\}\}}$$と書くことができるだろう。純粋に物理的に捉えれば、アリスの意識を随伴している物理量$${\{P_i\}}$$とボブの意識を随伴している物理量$${\{P_j\}}$$を区別する理由はないので(単に物理量がある(脳の)位置が異なるだけなので)、世界の状態を、
$$
\{P_\lambda | \lambda = i \, or \, j\} = \{\{P_i\},\{P_j\}\}
$$
と書くことにしたい。もう少し数学的に書くならば、アリスの意識を随伴している物理量の添字集合を$${\Lambda_a}$$、ボブの意識を随伴している物理量の添字集合を$${\Lambda_b}$$として、
$$
\{P_{\lambda} \}_{\lambda \in \Lambda_a \cup \Lambda_b } = \{\{P_i\}_{ i \in \Lambda_a } , \{P_j\}_ { j \in \Lambda_b } \}
$$
と表せられるだろう。メンタルな状態への写像は、$${\{P_\lambda\}}$$を用いて書くならば、
$$
f_{S_2}(\{P_\lambda \} ) = \{ M_a,M_b \}
$$
と書けるだろう。随伴現象説は、上記の$${f_{S_2}(•)}$$という関数が非物理的に存在するということを意味している。
多人数の場合・物も含む場合
世界には、アリスとボブ以外にも多数の人がいる。また、メンタルな状態を随伴していない物理量も存在する(そちらの方がはるかに多い。)。そのため、世界全体を表そうとすると、世界中の全ての独立な物理量を表すための添字集合を$${\Omega}$$として、関数$${f_S(•)}$$に加えて、物理量の集合から物理量の集合の集合への写像$${\Pi}$$が非物理的に存在して、
$$
\Pi: \{P_\lambda \}_{\lambda \in \Omega} \mapsto \{ \{P_i\}_ { i \in \Lambda_1 }, \{P_j\}_{ j \in \Lambda_2}, \cdots, \{P_k\}_{ k \in \Lambda_N}\} \\
S: \{P_\lambda\}_{ \lambda \in \Lambda_n} \mapsto M_n
$$
と書くのが良いだろう。ここで、$${n \in \mathbb{N}}$$はメンタルな状態を持つ者(人間)を区別する添字であり、$${N \in \mathbb{N}}$$はメンタルな状態を持つ者の数(イメージ的には世界人口)である。随伴現象説とは、上式が成り立つ写像$${\Pi}$$と$${S}$$が非物理的に存在すること(存在するとする説)と同義である。
写像$${\Pi}$$の定義域は、必ずしも世界中の全ての独立な物理量である必要はなく、任意の物理量の組みで良いだろう。すなわち、任意の物理量の添字集合$${\omega}$$に対して、
$$
\Pi: \{P_\lambda \}_{\lambda \in \omega} \mapsto \{ \{P_i\}_ { i \in \Lambda_1 }, \{P_j\}_{ j \in \Lambda_2}, \cdots, \{P_k\}_{ k \in \Lambda_{\eta(\omega)}}\}
$$
である。ここで、$${\eta(\omega)}$$は、物理量の組み$${\{P_\lambda \}_{\lambda \in \omega}}$$に随伴しているメンタルな状態の数である。
$${\{P_\lambda \}_{\lambda \in \omega}}$$が意識を随伴していない場合(例えば石の物理量のみを含む場合)には、
$$
\Pi: \{P_\lambda \}_{\lambda \in \omega} \mapsto \{ \} = \varnothing
$$
となる。
あらためて一人の場合の意識随伴の意味
あらためて、どういう場合に意識が物理量に随伴するのかを考えてみたい。 それは、ある種の運動方程式(物理量の時間変化を決める式)を$${\{P_\lambda\}_ { \lambda \in \Lambda }}$$が満たしているときであろう。ほとんどの物理量には意識が随伴しないので、極めて特殊な運動方程式に従う物理量のみが意識を随伴すると考えられる。すなわち、$${\{ P_ \epsilon\}_ { \epsilon \in E}}$$を$${\{ P_\lambda\}_ { \lambda \in \Lambda }}$$と直接相互作用する物理量として、関数族のある集合$${\mathfrak{F}_c}$$があり、$${\{f_\lambda\}_ { \lambda \in \Lambda } \in \mathfrak{F}_c}$$を用いて、$${ P_\lambda}$$の運動方程式(物理量の時間微分を決める式)が
$$
\forall \lambda \in \Lambda \quad \frac{d^{m(\lambda)} P_\lambda}{dt^{m(\lambda)}} = f_\lambda(\{\frac{d^n P_\xi}{dt^n}\}_{\xi \in \Lambda \cup E, \mathbb{N} \ni n \lt m(\xi)}, \{ P_\xi\}_ { \xi \in \Lambda \cup E})
$$
と書ける場合だろう。ここで、$${m(\lambda)}$$は、物理量$${ P_\lambda}$$の運動方程式の階数である。運動方程式は1階又は2階の微分方程式の場合が多いが、意識を随伴する物理量がどのようなものか不明なため、ここでは任意の階数とした。当然であるが、添字の記号を変更しているだけなので、$${\{P_\lambda\}_ { \lambda \in \Lambda } = \{P_\xi\}_ { \xi \in \Lambda }}$$である。
簡単に表記するために、左辺を右辺に移行した式を、$${\{P_\xi\}_ { \xi \in \Lambda }}$$から導く写像族(作用素族)を$${\{\mathcal{M}_\lambda\}_ { \lambda \in \Lambda } }$$、すなわち、
$$
\mathcal{M}_\lambda {\{ P_\xi\}_ { \xi \in \Lambda }} = -\frac{d^{m(\lambda)} P_\lambda}{dt^{m(\lambda)}} + f_\lambda(\{\frac{d^n P_\xi}{dt^n}\}_{\xi \in \Lambda \cup E(\Lambda), \mathbb{N} \ni n \lt m(\xi)}, \{ P_\xi\}_ { \xi \in \Lambda \cup E(\Lambda)})
$$
と書くことにしたい。作用素の慣例により、カッコの記載は省略している。一般的に作用素は線形とされることが多いが、$${\mathcal{M}_\lambda }$$は線形とは限らない。左辺に$${\{ P_ \epsilon\}_ { \epsilon \in E}}$$が含まれないが、どの物理量と相互作用するかは、自然法則により定まるものであり、すなわち、自然法則により写像$${\Lambda \mapsto E}$$が決まっているので、左辺に$${\{ P_ \epsilon\}_ { \epsilon \in E}}$$がなくとも右辺の$${\{ P_ \epsilon\}_ { \epsilon \in E}}$$は定まる。そのため右辺では$${E(\Lambda)}$$と記載している。
このように定義し、さらに$${\mathfrak{M}_c}$$を意識を随伴する物理量が満たすべき運動方程式を導く作用素族の集合と定義すると、$${\{P_\xi\}_ { \xi \in \Lambda }}$$が意識を随伴しているための条件は、
$$
\exists \{\mathcal{M}_\lambda\}_ { \lambda \in \Lambda } \in \mathfrak{M}_c \quad \forall \lambda \in \Lambda \quad \mathcal{M}_\lambda {\{ P_\xi\}_ { \xi \in \Lambda }} = 0
$$
となる。全ての意識を随伴している物理量の族の集合を$${\mathfrak{P}_c}$$とすると、
$$
\exists \{\mathcal{M}_\lambda\}_ { \lambda \in \Lambda } \in \mathfrak{M} \quad \forall \lambda \in \Lambda \quad \mathcal{M}_\lambda {\{ P_\xi\}_ { \xi \in \Lambda }} = 0 \iff \{ P_\xi\}_ { \xi \in \Lambda } \in \mathfrak{P}_c
$$
となる。この命題が、随伴現象説の意味するところ(本質)であると私は考える。そのため、この命題を随伴現象説の基礎命題と呼ぶことにしたい。