SPACの光と陰:SBCのNASDAQ上場とJEPLANの上場断念 – リデンプションの荒波に揺れる日本企業の挑戦
はじめに
2024年9月17日、日本国内で湘南美容クリニックを展開するSBC Medical GroupHoldings(以下、SBC)は、特別買収目的会社(SPAC)であるPono Capital Twoとの統合を通じてNasdaqに上場しました(プレスリリース)。当初、SBCの評価額は12億ドルとされていましたが、市場環境の変化や投資家の関心低下を背景に、最終的には10億ドルに引き下げられました。それでも、近年の日本企業による米国上場事例の中では、非常に高い評価額となっています。しかし、その上場が大成功であったかというと、必ずしもそうでもなさそうです。その背景には、SPAC特有のリデンプション(redemption)という仕組みが存在しています。
(画像は、SBCのHPより拝借させていただいております。)
SBCがSPACを通じてNasdaq上場、高いリデンプション率と特殊な株式保有構造
SBCのSPACであるPono Capital Twoは、エンジェル投資家であり慶應義塾大学SFC特別招聘教授の千葉功太郎氏が、Dustin Shindo氏と共にハワイで設立したSPACです。Pono Capital Twoに先立つ第1号SPACであるPono Capital Corp.は、空飛ぶバイクの開発で知られたA.L.I. Technologiesの持株会社であるAERWINS Technologies, Inc.(以下、AERWINS)のNasdaq上場を実現しています。
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SBCの評価額は10億ドルと算定されたため、かなり多額の資金調達に成功したのだろうと思って調べたのですが、実際にSBCの手元に残った資金は約2,000万ドルにとどまりました。その背景には、Pono Capital Twoの株主の大多数、約88%の株主がリデンプション(株式の現金化)を選択したことがあり、これにより多額の現金が流出し、SPACの信託口座に残された資金(言い換えると、SPACのIPO時に調達した資金)は約 2,000 万ドルまで減りました。
こうした高いリデンプション率に直面した場合、SPACは追加の資金調達(PIPEなど)をde-SPAC(企業結合)時に行います。しかし、SBCはこれらの追加的な資金の手当ては行わず、そのままde-SPAC(SBCとの企業結合)を進めました。この背景には、SBCが十分な手元資金を有していたことや、SBCがde-SPAC(企業結合)経由で上場することで米国の資本市場へのアクセスを確保し、今後の成長に必要な資金をFollow-on Offering(de-SPAC後に行われる追加の公募)で調達する道筋をつけることを優先した戦略的な判断があったと思われます。
高いリデンプション率により、SPAC上場時に調達した資金の大半がSPACの株主に戻され、通常de-SPAC(企業結合)時に行われる PIPEによる新規資金調達も行われなかったため、de-SPAC(企業統合)後の株式保有構造は興味深いものとなりました。SBCの元株主が93.7%の株式を保有し、パブリック株主の保有割合はわずか1.5%、Pono Capital Twoのスポンサーとその関係者が4.8%の株式を保有するという結果となりました。
リデンプションの仕組み
リデンプションとは、SPACの株主が合併前に株式をSPACに買い取ってもらい、現金を受け取ることを指します。SPACから見ると、これは株式の償還になります。SPACは通常、IPOを通じて資金を調達し、その資金は信託口座に保管されます。SPACとターゲット企業によるde-SPAC(企業結合)が発表されると、SPAC側の株主は次の2つの選択肢を持ちます。
合併に賛成し、株式を保有し続ける
De-SPAC(企業結合)後の企業の株式を持ち続け、将来的な株価の上昇に期待します。
リデンプション権を行使する
株主はSPACに株式を(元々購入したときの価格相当で)買い取ってもらい(SPACから見れば、株式を償還し)、信託口座から現金を受け取ります。リデンプションは、株主がビジネス統合に不安を感じる場合やリスクを避けたい場合に選択されます。
日系企業として同様にSPACを通じて上場を目指したJEPLANの事例
同じくSPACを通じて米国上場(NYSE)を目指していた日系企業に株式会社JEPLANがありましたが、上場を断念する選択をしています。
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JEPLANとAP Acquisition Corp.とのde-SPAC(企業結合)契約が解除された理由は、最低資金条件の充足が難しいと判断されたためです。これは、SPAC(特別買収目的会社)のde-SPAC(企業結合)において、よく見られる状況の一つです。
SPACはIPOを通じて資金を調達し、その資金を信託に入れた状態でターゲット企業を買収し、上場させます。ターゲット企業が、SPACと合併するメリットは、合併後に、SPACが持ち込む資金(つまり、信託口座の現金)を利用して、事業拡大を推進できることです。
しかし、上記のSBCの事例でも説明した通り、近年de-SPAC(企業結合)時にSPACの株主の大半がリデンプションを選択するケースが増えてきました。その結果、ターゲット企業はde-SPAC(企業結合)契約を締結する際、de-SPAC(企業結合)後に一定レベルの資金がSPACに滞留していることを求めるようになりました。これを「最低資金条件」、英語では、minimum cash conditionと呼びます。この条件を満たすには、株主が信託資金を引き出さずに残す必要があります。
JEPLANとAP Acquisition Corp.のケースでは、この最低資金条件が満たされる可能性が低いとされたため、双方の合意のもと、de-SPAC(企業結合)契約が解除されました。これは、多くの投資家が信託資金を引き出す(つまりリデンプションを行う)ことで、予定していた資金が確保できなくなるリスクが高まり、かつそれを補うPIPEからの資金調達に目途が立たなかった為であると思われます。
このようなリデンプション(資金引き出し)の増加は、特に市場が不安定な時期やターゲット企業に対する投資家の期待が低下している場合に起こりやすく、結果として企業結合が成立しないケースが見られます。このため、JEPLANのケースでは、必要としていた資金調達が達成できず、企業結合契約の解除に至ったと考えられます。
おわりにーSPAC市場の変遷と今後
SPAC市場は、2020年から2021年にかけて急成長を遂げましたが、その後、パフォーマンス不振や高いリデンプション率、いくつかの不祥事を受け、批判が増加しました。これに対応する形で、SECなどの規制当局は、開示強化や責任の明確化、将来予測に対するセーフハーバールールの撤廃など、規制の強化を行いました。これにより、SPACを利用する企業はIPOと同様の透明性と責任が求められるようになり、かつてのSPACの優位性は大きく失われています。今後、SPACを利用する企業や投資家は、これらの規制強化を念頭に置き、適切なリスク管理を行う必要があります。
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