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議決権種類株式の一種、Tenure Votingとは?

はじめに

米国の証券市場、特にNasdaqに上場するスタートアップ企業では、創業者が会社の経営権を維持するために、議決権種類株が広く採用されています。特に有名な例として、Googleの運営会社であるAlphabet Inc.があります。Alphabet Inc.では、以下の3種類の株式が発行されています。

  1. クラスA株式
    一般投資家が購入できる株式で、1株あたり1つの議決権を持ちます。

  2. クラスB株式
    創業者や内部者が保有する株式で、1株あたり10倍の議決権を持ちます。これにより、少ない資本で企業の経営に強い影響力を与えることができます。

  3. クラスC株式
    議決権を持たない株式で、主に新たに発行される株式やストックオプションとして利用されます。

この構造により、創業者は企業の支配権を維持し、長期的なビジョンを実現しやすくしています。しかし、この構造には、支配権が創業者に過度に集中し、株主間の公平性が損なわれるという批判も存在します。

Tenure Voting(テニュア投票制度)とは?

このような複数議決権株式に対する批判に対処するために提案されたのが、Tenure Votingです。Tenure Votingは、株主が株式を長期間保有するほど投票権が増加する仕組みです。この制度により、短期的な市場圧力から企業を守りつつ、長期的な成長にコミットする株主に対してより大きな発言権を与えることができます。

歴史的背景と導入例

Tenure Votingは、1950年代にアメリカの食品メーカーであるJ.M. Smucker Companyが初めて導入しました。彼らは、株式を4年間保有した株主に追加の投票権を付与し、企業の長期的な成功を目指しました。1980年代には、敵対的買収のリスクに対抗するため、他の企業もこの制度を導入し始めました。Aflacは1984年にTenure Votingを採用し、4年以上株式を保有する株主に対して、1株あたりの投票権を10倍に増加させる制度を導入しました。

Tenure Votingのメリット

Tenure Votingのメリットは主に以下の3つが挙げられます。

  1. 長期的な株主の優遇
    長期保有する株主に対してより多くの投票権を付与することで、企業の長期的な成長に貢献する株主が経営に強い影響力を持つことができます。

  2. 企業の安定性向上
    Tenure Voting は、短期的な株価の変動や敵対的買収から企業を守り、長期的なビジョンに基づく経営を可能にします。

  3. 株主の忠誠心向上
    株主に長期間株式を保有するインセンティブを与えることで、企業と株主の信頼関係が強化されます。

Tenure Votingの課題

一方、Tenure Votingの課題としては主に以下の2つが挙げられます。

  1. 実質株主の把握の難しさ
    株式が「ストリートネーム」で保有されている場合、実質的な所有者を特定し、保有期間を正確に追跡することが困難となります。ストリートネームとは、株式がブローカーや証券会社の名義で保有される形態を指し、これにより企業が実際の株主を特定することが難しくなるため、制度の管理が複雑になります。

  2. 管理の複雑さ
    株主の保有期間を追跡し、投票権を適切に割り当てるためには、詳細な記録管理が必要であり、企業にとって追加の負担となります。

近年のTenure Votingを巡る動き

Tenure Votingは、複数議決権株式と一株一議決権株式の折衷案として注目されています。2019年に開設されたLTSE(Long Term Stock Exchange)は、企業の長期的な成長を支援するための新しい証券取引所です。この創設者であるEric Ries(エリック・リース)は、LTSEに上場する企業に対して、Tenure Votingの導入を提唱しました。最終的にSECによる承認時には、この制度の採用は必須ではなく、任意で導入することができる形にとどまりましたが、今後、Tenure Votingがどのように進化し、企業ガバナンスにどのような影響を与えるかが注目されます。

日本でも、長期保有株主に対する優遇措置を導入する企業が増えており、長期的な株主価値向上への考え方として、Tenure Votingの概念は参考になると思います。

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