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品質管理の玉手箱(1)

TQCとTQM

 1987年に制定された品質保証のための国際規格ISO 9000シリーズが抜本的に改定され、品質マネジメントシステム(QMS)の国際規格に生まれ変わって23年、この間2度(2008年、2015年)の改定を経て次の改定に向けた動きが本格化される中、2000年の大改定(QAからQMS)の時期に筆者が関わっていた検討委員会のメンバー達が当時口にしていた懸念が、今正に着実に現実化しているように思います。

 「このままじゃ、日本の品質管理が乗っ取られるぞ…」

 1970年代から1980年代にかけて企業の最前線で日本型品質管理を叩き込まれた筆者達にとっては、欧米型の品質マネジメントシステム(QMS)は、正に「平成の黒船」とも呼べる衝撃的な出来事でした。

 あれから18年、ISO 9001の最新版(2015年版)のJIS(日本産業規格)化に伴って発売されたある解説書の中に、こんな記述を見つけました。
 「日本のTQCが、海を渡ってTQMに結実した」
 この解説書の著者は、それなりに名の知れたISO 9000の専門家で、コンサルタントを生業としている方ですが、この一文は、正に、23年前の懸念の的中を物語るものと言えるでしょう。

 と言っても、それは、この指摘が正しいからではなく、むしろ、全く事実無根だからです。
 こんな、事実をねじ曲げるような無責任な発言が、決して少なくない数の"自称"専門家から発せられることで、あたかも、それを事実のように勘違いして、職場から"日本型品質管理"を排除して、"欧米型品質マネジメント"に乗り換える企業(組織)が多数を占めている現状を予測して、大きな不安を感じていたのでしょう。
 かと言って、筆者は、"日本型品質管理(日本型TQC)"と"欧米型品質マネジメント(TQM)"を比較して、「どちらが良いとか悪い」とか「どちらが優れているとか劣っている」と言う議論をするつもりはありません。
 なぜならば、そもそもこの2つは、"経営の質の向上"という同じ目的を、「異なる視点」で「異なるアプローチ」から達成するための「異なるツール」だからです。
 つまり、"日本型TQC"と"TQM" は、昨今の風潮にあるような「どちらかをやれば事足りる」というものではなく、その時々の状況(TPO)に応じて使い分けながら、両方をバランスよく活用してこそ“真価”を発揮するものなのです。

 そこで、次回からは、"経営の質向上"のための2つのツールである"日本型品質管理(日本型TQC)"と"欧米型品質マネジメント(TQM)"の歴史を振り返りながら、これらのツールをどの様に展開し、活用すれば良いかのかを考えてみたいと思います。

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