「男は狼なのよ。気をつけなさい」は本当なのか
電車に女性専用車両ができて久しい。今でも時々「男はみな痴漢だと思われてるみたいで不愉快だ」という声や「男性専用車両もつくらないと不公平だ」とかの意見もまだあるようだがもはや完全に定着したと言えるだろう。
男はみな痴漢だと思われてる、みたいな不愉快さは僕にもわかる。たとえば電車で空いてるからと何の深い理由もなく女子高生の隣の席に座ったらその女子高生が立ち上がって向かいの席に座り直したりすると相当へこむし、なにか自分が得体の知れない妖気みたいな加齢臭を出したのか、なにかされそうな危険を感じたのか、と
考えてしまうもの。
でも、当たり前だとも思う。多くの女の子にとっておじさんって理解できない生き物だろうし、気味悪いものだろうし、こわいものだろうから(イケオジは除く)。
好みの女性をみたらすぐ頭の中で妄想したり、あわよくばなんとかできないかと男ならみなそう思うだろうというのはさすがに極端だと思うけど、MeeToo運動に共感してSNSで投稿したり、セクハラを告発している男性すべてが聖人君子なのかというとそれもどうだろうという気はする。自分自身をかえりみても、アイドル(ただし日向坂に偏るが)は好きだし、好きな女優さんが出てるだけでその映画が凡作だろうが見るだろうし、その映画にたとえばセクシーなシーンがあった日には興奮してドキドキするし、職場や趣味の場で知り合った異性でも素敵な人がいたら心をときめかせるだろうし、また会いたいな、と思ったり、もっと近づきたいなと思うことなんてざらにあると思う。なんなら食事でもどうでしょうか?くらいなことは普通に言ってると思うし、下心(そこまで大それたモノではなくとも)がゼロだと断言できるほどの清廉潔白な人ではない。筒井康隆さんの名作「家族八景」などの主人公、七瀬は人の心が読める超能力者だが、多くの男性が容姿端麗な彼女の前に出ると卑猥な想像をしたり、頭の中で服を脱がせたりするシーンが出てくる。中学生の時に初めて読んだとき、僕は「ああ、自分の考えてることが相手の女性にばれるなんて地獄だ」と思ったことを覚えている。さとるの化け物ではないが、考えないでいるということがいかに難しいか、人はそれができないから。
では、僕も他の男も皆性犯罪者かその予備軍なのかというとさすがにそういうことはないわけで、僕たちがそういう輩と違うのは「理性」と「常識」と「世間体」などがあるので妄想を現実化することはない。多くの場合、人生を棒に振ったり相手の女性を傷つけるようなことはしない(はずだ)
それでも普通に性的嗜好性の対象が女性であったら魅力的な女性が目の前に現れたらその理性とやらが揺らぐ危険性はあるわけで、そういう意味では「男は狼なのよ、気をつけなさい」とピンクレディが言うのも間違ってはない(古いな)。
羊が視覚的聴覚的な刺激を受け、それが実行できる環境にあると感じ、相手の女性も受け容れてくれるはずだという根拠のない思い込みにとらわれたら一線を越えるのはそう難しいことではない。だから男性は「自分は意志はそこまで強くないはずだから誘惑に気をつけ、自分の軽はずみな行動が致命的になることがあるんだ」と自分にいつも言い聞かせないといけない。「つい魔が差して」は通用しないのだ。
いま、世間では主に映画業界を中心に起きている「監督や役者などによる性加害」の火がおさまらないどころかさらに燃えさかっている。僕は自分が男性だからこそこういう映画界の悪習みたいなものを撤廃すべきだと思うし、泣き寝入りする女性が1人でもいなくなるためにできることをやるべきだと思うから発信もしてきた。告発もどんどんすべきだと思ってる。自分にできることなら募金や署名もする。
とにかく責任ある大人としてできることはすべきだと思うし、映像業界の端くれにいるものとしてこの業界が腐ったものだとは思いたくないしこれから目指す若い人たちにはそう思ってほしくないから。
しかし。頭の中では誰かが僕に囁き続けているのも事実。
お前はそんなに聖人なのか。断罪できるほどご立派なのかと。
いえいえ、僕なんか全然ダメです。脇が甘いからたぶん美人局とかハニートラップみたいなのにすぐひっかかるだろうし、これからだって好きな女の子と2人で外で飲んでたら「このあと夢のような展開にならないかな」と妄想だってするだろう。
決して人格者でもないし、女性の味方づらしてるけど頭の中はそう大差ないかもしれないし。
でも自分がそういう弱くてうつろいやすくて流されやすいことを自己認知してるからこそ、その現実を受け容れ意識的に行動するしかないなと思っているのは事実。
だから電車で隣の女子高生が立ち上がって違う席に行こうが、エレベーターで女性と二人っきりになってしまった時にその女性が僕を警戒してるかのように身を固くしていることがわかっちゃおうが、夜道で前を歩いてる女の子が振り向いた後に少し急ぎ足になったように見えようが、そんなことぐらいで動揺してはいけない。
そう、僕も女性から見ればいつ狼に変わるかわからない男の1人なのだろうから。