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中国経済の特徴

奔放財政により破綻すると言われて久しい中国の経済状況ですが、その度に幾度も危機を乗り越えて来ています。

日本では習近平主席が学生時代に地方に「下放」され毛沢東語録しか学んでいない低学歴とまことしやかに言われ、そんな経済も分からないくせに強権を発動して弄り回しているからもう経済政策に失敗し崩壊は時間の問題と見られがちですが各分野の「指導小組」が補佐しており経済問題についても経済ブレーンが示唆を与えていると言われています。

中国経済とはどのようになっているのかは統計データの期間が短く研究事例も少ないため明らかになっていない部分も多いのですが先行研究事例を参考にここに纏めておきたいと思います。


・中国経済の特徴

幣制改革以前の中国は銀本位制であり両替商や送金業はそれなりに発達しましたが統一通貨が維持される事はなく雑種幣制でした。
日中戦争中は国民党が国家銀行を掌握し戦費調達などでインフレに陥っていました。

戦後の混乱期は米ドルや香港ドルが混在して流通していましたが1949年の中華人民共和国成立後は中国共産党の一党独裁体制による計画経済の社会主義での国務院に従う中国人民銀行一行が中央銀行業務と一般銀行を兼任するモノバンク体勢でしたが、1978年の「改革・開放」政策による市場経済を取り入れる方針転換で人民銀行から商業部門などを分離独立させ、証券市場の整備などで海外の投機資金なども流入し2001年のWTO加盟後は製造業を強化し貿易を通じ輸出大国となり世界第2位の経済大国に成長しました。

規制緩和は特別に許可される「特区」を制定し、そこでの運用が成功すると上海など主要都市に展開、その後各地方に広げると言う形で広められていきます。

政府の補助金政策による国家的重点産業の庇護と外国からの技術移転を促す政策によって長く高度成長を続けましたが、かつて国家発展をけん引した鉄鋼などの産業は成長が頭打ちになっていますがその多くが国有企業であるため整理されず余剰な生産設備は温存されている事が「余剰生産能力の輸出」と外国との貿易の軋轢になっており、近年はEVや半導体などの競争の激しい成長分野でも他国の批判の的になっています。

一方、広大な国土ゆえ発展著しい沿海部と取り残された内陸部の地域格差が拡大、また「都市戸籍」と「農民戸籍」という身分による格差、共産党員とそれ以外の経済格差などの格差が拡大するなどの問題を抱えています。

夫婦一組につき子供を一人しかも受けられない「一人っ子政策」が2015年まで続いていた事から生産年齢人口の減少による急速な高齢化社会にも苛まれています。

社会福祉制度の不足や一人っ子政策による自身の老後不安などから貿易黒字による経済拡大も資金移動の制限や経済の未発達から家計部門の平均貯蓄率は40%前後で推移しており、コロナ禍という突発イベントによる強制貯蓄までは5~10%で推移して来た日本やアメリカと比べて高い比率を占めています。

OECD貯蓄率データ

これが銀行の貸出原資として融資に回り、高度成長の設備投資を支えましたが後に金融市場が規制緩和されると各種金融商品が開発されシャドーバンキングを通じて地価の高騰を招き土地バブルの崩壊、また株式市場に流れ込んで株式取引ブームからの株価下落など常に資金移動の自由のなさと大きく動く経済の反動による不安定な動きを続けています。

また問題解決を市場原理で図る資本主義と違い、政府が為替や金利を操作する事により「国際金融のトリレンマ」に陥っていました。
2005年の為替相場制度移行や上海市場と香港市場の連動などによって経済は混乱を来たしました。


・経済成長目標

中国は社会主義時代の計画経済の習わしでまず「経済成長目標」を設定します。
この目標を達成する為、中央政府と地方政府が予算を差配しますが、この目標を達成するためなりふり構わず投資が行われ、また国家主導であるという安心感によって参入が相次ぎ過剰投資に陥ります。

しかし公共インフラ、不動産、製造業など国策である国有企業の多くは温存されるため市場による淘汰は進まず、非効率で過剰な生産能力を抱え込む事になります。
政権が変わるタイミングなどで大ナタが振るわれて不採算部門の整理が一気に進められる事もあります。

近年はいびつな二桁経済成長より8%程度が望ましいとされる「新常態」(中国版ニューノーマル)が提唱されました。


・融資平台とシャドーバンキング

地方政府が独自に差配できる予算は長らく制限されていましたが金融改革などで徐々に自由度を増した事で独自に大型開発案件や企業誘致が出来るようになりましたが、人民銀行や4大商業銀行は専ら国有企業や国家案件に集中していた事と財政面の法整備の遅れから財源は不足しており、地方政府管轄の土地所有権の売買が認められたことで地方政府の財源を賄う融資平台(投資資金プラットフォーム)が設立設立され開発をけん引しました。

またシャドーバンキングが発達しているのも中国経済の特徴と言えます。
「シャドーバンキング」というと高利貸しのような悪徳業者をイメージしがちです。アメリカではプライベートバンクや投資ファンドに代表される非金融機関が発達し金融危機の影響したとして規制されていきましたが、中国ではこれらの他に銀行が簿外として計上できる利点を活かして総量規制を回避する為、自前のシャドーバンキングを行う事が一般的となっています。

したがって中国の統計局が公表するデータの信ぴょう性そのものが疑われる要因となっていますが、銀行業の店舗展開に地域制限があった事から広大な国土の津々浦々までに融資を広げる役割を果たしました。
また、融資基準に満たない中小企業や個人向け融資を行うと言う金融機関の役割も果たしており人々の生活に無くてはならない存在となりました。

これらは様々な融資案件を債権化して販売して資金調達する手段が広く用いられていますが、その背景には最終的には国が公的資金で救ってくれるだろうと言う認識が一般的になっており、実際に金融機関が元本割れを補填するなど低金利からの資産運用先を探す個人投資家の獲得競争が過熱し株式投資ブームが起きましたが様々な「ブラックスワン」の出現で度々株価の暴落が起きており人々は神経質になっています。
しかし資金移動が制限されている中で出来る事は限られるようです。

この枠組みや地方での金融機関の不便さでフィンテックの発達で直接融資のP2Pや街の屋台でもネット決済が発達する下地にもなりました。

これらのデジタル決済はそのビッグデータ自体が大きな価値を生み出し、これらの決済サービスを利用する事によるメリットが大きいとして外国からも注目されています。

・中国の経済刺激策

政府が定める産業重点分野への補助金の他、リーマンショック後の4兆元(当時レートで57兆円)規模の景気刺激策は各分野に恩恵もたらし、中国経済を下支えする役割も果たしましたが家計の貯蓄は更に増え、開発向け融資への支給が滞って地方政府の財政が悪化したり景気が過熱したため物価高騰を招くというアンバランスな結果も招きましたがここでの中国発の金融危機は食い止められました。

しかしかつて100元の新規融資のGDP押し上げ効果は90元だったものが金融危機後は30元以下に落ち込んでおり成長の鈍化が顕著になってきています。

李克強首相は経済の実態が見えづらい事を認め、実態経済を把握する銀行融資、電力消費量、鉄道貨物量といった間接指数によって経済の動向を掴もうとしました。(李克強指数

中国ウォッチャーの間でも原油輸入量などから経済活動を推定する手法が一般的になっています。

・金融危機はなぜ幾度も防がれるのか

度々起きる株価暴落や不動産バブルの崩壊など中国経済は行き詰まりを見せており、いつ中国発の世界金融危機のような混乱に陥ってもおかしくないと見られていますが、いつの間にか危機をやり過ごしています。

一つには権威主義国ゆえ、金融機関封鎖などの強い政策を打ち出して抑え込めるということがあります。
市場開放が限定的であり資金移動が制限される市場規模は小さく未成熟だった事も抑え込みが機能した要因でしょう。

また取り付け騒ぎが起きても直ちに報道管制を敷き情報が拡散されるのを防ぎ、またそれらの行為を処罰する強権発動によって人々がパニックに陥るのを食い止めているのは確かで、これをもって中国は市場に任せる資本主義を超えたと持て囃す人も居ます。

中国は過去にアメリカや日本、韓国などで起きた金融危機を研究しており、先進国の失敗をなぞっているように見えても実は先手で動いている事から悪影響があの程度で済んでいる可能性はあります。

ただし各国から投資を呼び込むため規制緩和を通じ外国との関りが増し、また先送りされた負債が巨額になるにつれ猶予の余地は少なく取れる対策は限られてきているのも確かです。

・改革推進派と慎重派

中国では共産党による一党支配体制の維持が至上命題となっています。
経済政策を巡っては鄧小平が唱えた改革開放に賛同し経済発展を目指す改革推進派が居る一方、経済の自由化は情報の自由化などけに主義体制を揺るがしかねないとする慎重派もおり、常に権力を巡って暗闘しています。

この為、国家指導部体制が変わると経済政策が大きく見直される事があり、これが経済の混乱を招き、諸外国も「チャイナリスク」を意識するようになってきています。

現在の習近平体制は、それ以前の集団指導による意思決定の遅さと決別し習近平自身に権力を集中させています。

政治腐敗による経済的損失を指摘し、腐敗一掃と称して厳しく取り締まった結果、非効率な部門は見直されつつありますが、逆にそれによってこれまでなんとなく回していた処理が上手くいかないくなるなどの綻びも見え隠れしています。

・中所得国の罠

国民一人当たりGDPが中程度の水準に達した後に経済成長パターンを労働集約型製造業から先進国のようなより付加価値の高い産業構造に転換し、更なる安定成長期に入る必要がありますが多くの発展途上国はそれに失敗しています。

中国特有の事情としてはまずその人口の多さがあります。
人件費の高騰を嫌って中国に進出していた外国企業がベトナムなどまだ人件費の低い国に移転し、中国企業もそれに倣って海外進出するに至りかつて高度成長を担った膨大な人口で発展した生活を維持していくのが困難である事は想像に難くありませんが、更に一人っ子政策による労働人口の現象が始まっており、今後経済成長が鈍化するとみられます。

更に国家の重点分野において他国との利害が衝突し、特にアメリカが中国の発展を危険視するようになって以降、先端技術の移転が厳しく管理され、また人材交流も以前のような自由な往来が出来なくなりました。

・負債の付け替え、先送り

負債処理銀行を設立し不良債権処理を行っているにも拘らず負債は増え続けています。

内閣府<2023年下半期 世界経済報告>より

地方政府の融資平台と不動産の負債が増え続けており、銀行業の負債を簿外扱いできるシャドーバンキングの不良債権が増している事が背景にあるようです。

内閣府 第1章 2023年前半の世界経済の動向(第2節)より

景気拡大局面では緩い審査基準でもなんとか回っていたものが輸出の不良や株式市場の低迷で経済停滞期に潜在的な問題が一気に表面化しています。

こういった「上に政策あれば下に対策あり」というのも中国の特徴の一つと言えますが、地方政府の役人にとって国策プロジェクトで成果を出す事が出世を決める最低条件となる為、担当から地方政府、地方政府から中央政府へ報告が上がる度に成果を水増しする慣習がまん延したため統計の不透明さもあってモラルハザードを招きやすい構造になっています。

・習近平体制でどうなるか

権力を集中させ、腐敗一掃に乗り出した習近平政権も3期目に入りました。

この反腐敗闘争は政敵を一掃し地方政府のトップの多くを習の意を汲む人材にすげ替え権力基盤を盤石なものとする為という見方が一般的ですが、経済の面からみると政治の腐敗と経済の発展には負の相関関係があり、中国においても腐敗が蔓延っている地方の経済成長は低い水準にある事から効率化という意味では一定の意味があるように思われます。

一方で覇権争いに名乗りを上げ対決姿勢を鮮明にした事により警戒したアメリカは中国への関税引き上げや先端技術へのアクセスを禁止する措置を次々に打ち出した事によって中国経済にブレーキが掛かっている状態になりました。

先端半導体では世界の最先端研究にアクセス出来にくい状況となり、自国の研究が頼みになっており、巨額の政府補助を打ち出していますが研究開発や産業の厚みが先進国より数段劣る事を考えるとこれらの国々を凌駕する成果を出す事は直ぐには難しくなったという意味では他国に警戒心を抱かせた事は失政だったといえるかもしれません。

また国富流出を防ぐ資産移動制限も自由な経済活動の制限を課す足枷になっているでしょう。

近年では再び中国の余剰生産能力の海外輸出がアメリカやEUで問題視されるようになりました。
中国の資本で中国の生産力を活用する「一帯一路」構想が思うようにいかなくなってきている事も行き場を失っては新たな矛先を向けては問題を起こしていると言えるかもしれません。

様相が一変する政策の転換を繰り返してきた中国ですが、今後どのような動きをするか予断を許さない状況が続くことになります。


・資料

書籍
中国経済の謎―なぜバブルは弾けないのか?


家計・企業の金融行動から見た中国経済: 「高貯蓄率」と「過剰債務」のメカニズムの解明


中国のシャドーバンキング:形成の歴史と今後の課題


中国の金融経済を学ぶ:加速するモバイル決済と国際化する人民元


web資料
第1章 2023年前半の世界経済の動向(第2節)


深まる中国シャドーバンキング(影の銀行)の問題
https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2023/fis/kiuchi/0818_4

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