紅茶とビスコ
紅茶とビスコ2枚といういつもの朝食を、窓の外を眺めながらとる。先日、菜月に言われたことが頭をよぎった。
「智の癖がうつっちゃって、今でも紅茶飲む時はクッキー添えるんだけど」
蜂蜜色の髪と、耳元でくるくると揺れるピアス。
「友達にさ、イギリス人なの?って言われたよ。覚えてる?私も智にそう言ったの。」
覚えてる、とその時智は答えた。
「俺の部屋に初めて菜月が来た時ね。」
「ちゃんとカップを温めてから紅茶を淹れる人、あの時初めて見たよ。」
今では私もそうしてるんだけどね、と言っていた彼女は、もうすぐ結婚するらしい。その招待と近況報告を兼ねて食事に誘われたのだ。菜月は確かに幸せそうだった、と智は思う。二人が恋人同士であった大学時代より、落ち着いた雰囲気をまとっていた。口を開けば中身は変わっていなかったけれど。
別れた恋人同士の間に存在する友情を智は信じていない。友情が存在するなら、別れる必要はない。相手との関係を一切清算したいと思うから、別れを選択するのだ。だから智が菜月に抱いているのは友情ではなく別の何かだった。
それが未練や好意かと言われるとしっくりこない。もっと複雑で曖昧で、綺麗さっぱり無くなってほしいような心の何処かにあり続けてほしいような、何とも言い表し難い"何か"だった。