Episode 0「シマフクロウのしまっちとシマエナガのエナ」
しまっちは、この森の一角を守護しているシマフクロウだ。森には美しい川が流れ、澄んだ水が岩の苔を洗う。その苔を食べる魚も多くいる。川のほとりには樹齢百年を超えた巨木が連なり、木の実も沢山できる。命に溢れ 奥深い森だ。
しまっちの棲む森は、とても大きい。森の果てが、どこなのか、まるで見当がつかない。いったいどこまで続いているのか確かめてみたい…時々そう思うが結局、深く暗い森の奥までは行けない。何しろ生き物を拒む気配が強くて、どうにも羽がすくんでしまう。奥へ入ったが最後、もう二度と、誰にも会えなくなってしまう…そんな不安な気持ちになるからだ。
結局、お気に入りの大きなミズナラの木がある、川のほとりの浅い森の辺りを守ることで満足している。
しまっちは、オスだ。子供ではないが、まだ若い。夜行性なので、きほん、昼間は、あまり動かない。だがそんなことはお構いなしに、この森の生き物たちは、昼夜を問わず騒がしい。
今日も相変わらず昼は眠い。でも、雨上がりの森はとても心地がよい。
「 ! ! 」 眠りをさえぎる聞き覚えのある音がした。 「しまっち…」 確かにそう聞こえる。甲高いが弱々しい。しまっちは とても耳がいい。今度は音に集中した。
「しまっち!」
これは エナ(シマエナガ)だ。すぐにエナの声のする方に飛んで行く。エナは、大きな枯れた木の、地面に近い小さな穴の中で、ぶるぶると震えていた。
「エナ、水浸しだね、どうしたの」
「しまっち…」
「なあに」
「私ね …黒い鳥たちに襲われて、逃げたの」
「カラスかい?」
「わからないわ。雨で体が重くて…早く飛べなかったの。あいつらに食べられちゃうと思って…必死に逃げてるうちに川に落ちちゃって…そしたら…いっぱい 流されて…やっとここまできて… もう、寒くて…羽も動かないの。助けて …しまっち」
「そうだったんだ」
しまっちは、小さなエナを自分の羽の中に抱き抱え、すっぽりと包みこんだ。
「乾くまで…こうしているね」 「ありがとう 」
エナは思った。 (好きな匂いだなぁ しまっちは、よく乾いた干し草のような匂いがする)どれくらいの時間が経ったろうか。エナは、いつの間にか寝てしまった。
「しまっち!」 「…なあに」
「ごめん 私、寝ちゃった」 「大丈夫。ボクも寝ていたよ」
「おなかすいたね」 「うん」
「食べ物をさがしに行こうか」 「うん!」
「エナは何をたべるんだっけ?」
「虫!しまっちは魚よね」 「うん」
「行こうか」 「うん」
雨上がりの森は、今日も静かで優しい匂いであふれていた。
(逆光の中、川づたいに森のなかへ飛んで行く二羽の姿…)
おしまい。
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