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「離婚したけど、死んじゃあいない」スーザン・サランドン
スーザン・サランドンは、もう一人のメリル・ストリープと呼ばれている演技派。
女性差別の男社会に喧嘩を売った「テルマ&ルイーズ」。しかし、サランドンの
痛快な生き方は、映画にとどまらない。
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カトリックの大学を卒業して、カトリックが禁じる離婚を5度経験。
最長は15年続いたティム・ロビンズ。初婚は学生結婚で12年、その他は短く。
10月4日生まれの78才で、シングル歴9年。
(苗字は、学生結婚した「サランドン」が気に入り、後の4度の結婚でも苗字を変えなかった。3人の子供たちの苗字は、配偶者の苗字に)。
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カトリック設立の大学なので、聖書は必須。サランドンは悩んだ。
キリスト教の原点とも言える「原罪」を、どうしても理解できなかった。
また、神を信じる人々が集団になれば、勇ましいことを言い、キリストや仏陀や
モハメッドの考えが曲げられたのではないかと、疑問を感じた。
「原罪」を疑い、「教会」を批判した学生に、大学は手を焼いた。
最初はさとすような大学側の態度が、ある時点で一変、冷徹になった。
「クリスチャンとしての常識がない」学生のくくりになった。教室の学生も隣に座らなくなった。喋りかけない、村八分だった。
聖書学科ではなく、演劇学科だったので、なんとか切り抜けた。
信仰心を猜疑心に変えて、サランドンは中指を立てて卒業した。
二度見されるほどの美女ではない。サランドンは、映画女優なんて考えもしなかった。演劇好きの夫と舞台でも地味にやっていこうかなと、漠然と思っていた。
ある日、夫に誘われて映画のオーディションに。夫は落ちた。
サランドンが言う「交通事故のような感じで、初のオーディションをパスした」
聖書に文句ばかり言っていたサランドンに、監督たちは、いい意味の不良性や、
可能性を感じた。
校庭の迷える子羊だった彼女に、救いの手を差し伸べてくれた。
まず、スーパーの商品を棚から落としながら歩く不良少女でデビュー。
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彼女のビギナーズ・ラックは、その後も続いた。
その後「ロッキーホラーショウ」などのカルト映画から、リアルな女性を演じるようになった。
知的で陰のある性格俳優の色合いを濃くしていく。
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「偏見を捨て、心を開いて、耳を研ぎ澄ます」サランドンの自然体の演技を受け止める、大人の観衆が増えていた。
静かな怒り、涙のない悲しみ、リアリティを追求した彼女の感性に、人々は共感した。
カメラを離れれば、ノンフィクションの「デッドマン・ウオーキング」を通じ、
死刑廃止運動にも取り組んでいた。
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また、サランドンは、LGBTQ+の啓発にも心をくだいている。
性差別の偏見を攻撃する映画「ディープ・ランDEEP RUN(2015)」は、サランドンが出資・製作。
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ノースカロライナ州の田舎町に住む17才の少女が、レズの友達と結婚したいが、親も含め、周囲も猛反対。それならと、性転換して男性として結婚を試みるが、カトリック教会は認めない。
性転換も同性婚も認めない、偏狭なカトリック倫理観と戦うドキュメンタリー。
サランドンは、カトリック教会を敵にまわしても、LGBTQ+に不寛容な宗教的保守層に対して警鐘を鳴らしたかった。
サランドンは、政治にも関心が深い。反トランプ・デモに参加して、逮捕されたこともあり、彼女は、FBIにマークされていた。
ある日、サランドンが、市民の閲覧権を行使して、FBI調査ファイルの開示を求めたところ、彼女の電話が盗聴されていたことがわかる。
ユネスコの親善大使でもあった、サランドンは、軽く驚く。
離婚の谷間で、デビッド・ボウイやショーン・ペンとデートしていたけど、離婚した今はどうか。
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サランドンは、SNSで「デートする相手は、男性でも女性でもいい。年齢も肌の色も関係ない。お互いが求め合えば、他のことは些細なこと。私は、バイセクシャル」と告白。
スーザン・サランドンが教えてくれた。
すべてうまくいかなくても、
どこかで救いの手を差し伸べてくれる人が出てくると信じる。
そして、次に自分が救いの手になる。
サランドンは、胸のすくような存在だ。
「テルマ&ルイーズ」のような人生の痛快な旅をしてきたに違いない。