エドワード・ホッパーの描いた世界にトム・ハンクスがいた
<ムービージュークボックス7>
子供は、だいたい「お父さん子」と「お母さん子」に分かれる。
大人になっても、その影を感じる。
いやおうなく「お父さん子」になった子供の話がある。
「ロード・ツゥ・パーディション(地獄への道(2002)」
息子が、「お父さんって、何やってる人?」という疑問を持ったことからすべてが始まる。
母に尋ねるが、答えてくれない。
息子は、父のクルマの後部座席の下にもぐり込み、仕事場に向かう。
そこで、ギャング同士のとんでもない殺し合いを目撃。
息子は、父がマフィアの幹部であることを知る。
こわくなった息子は、父のクルマに舞い戻ったところを、
マフィア仲間に見られてしまう。
殺人現場を目撃した外部の人間、たとえ子供でも生かしておけないという、
マフィアの暗黙のルールで、家族は襲撃される。
しかし、父と息子は外出中で生き延びる。
そこで、ボス(ポール・ニューマン)は、殺し屋を差し向ける。
父(トム・ハンクス)の逃避行が始まる。
命がけの逃亡を覚悟した父は、息子に厳しく接する。
ところが、父がマフィアだと知った息子は、父を尊敬する気持ちも薄れ、
父の言うことに、今までどおり従順にはなれなかった。
「ここで食事しようと」と父に誘われても、「食べたくない」と拒否した。
でも、そもそも、なぜ、父と逃げ回らなければならないか。
あの時あのことを見ていなければ、こんなことにはならなかった。
自分のせいだ。
しかし、父は、足手まといの息子を捨てて、自分だけ逃げることが
できるのに、一緒に逃げてくれている。
父の命がけの愛情を感じて、息子は父に従うようになる。
とてもいろいろあった。逃走を続け、湖畔の親戚の別荘にたどり着く。
親戚の飼い犬ゴールデンレッドリバーが、息子を出迎える。
父はひとりで、家の中に入る。とても静かだ。
静かすぎると思った瞬間、ドン、ドン、と二発の銃声。
父は、待ち伏せしていた殺し屋(ジュード・ロウ)に狙撃される。
殺し屋が、部屋の隅からゆっくり立ち上がる。
死体愛好趣味の彼が、死にゆく父を撮影し始める。
息子が、銃を握りしめて殺し屋の背後に立った。
瀕死の父は、早く撃てと、目で合図する。
息子は、なかなか撃てない。
殺し屋が、息子から銃を奪おうとしたとき、ドンと銃撃音がして、殺し屋が膝から崩れ落ちた。
「お前には、撃てないと思った」と言って、父は息絶えた。
死んでいく父を目の前にしながら、なぜ息子は、殺し屋を撃てなかったのか。
息子には、二人がマフィアの悪人にうっすらと見えていたのだろう。
一点のくもりも、かげりも許さない、天使の潔癖さがそうさせたのか。
父は、息子の冷たい天使の目線をずっと感じていながら、息子を守り続けていた。
とはいえ、命がけで自分を守ってくれた父に対する感謝の念は消えない。
「お父さんは、いい人だったか」と聞かれると、
「あの人は、僕のお父さんだった」と息子は、胸をはっていつも答えた。
「お父さん子」のこの言葉で、映画は終わる。